先日、ある社長からこんな相談を受けました。
「今期、利益が出すぎてしまって。このままだと法人税だけで1億を超えそうなんです。M&Aを使えば節税できると聞いたんですが、本当のところはどうなんでしょう?」
年商が10億を超えてくると、こういった相談が増えてきます。そして答えはYESです――ただし、正しく設計された場合に限って。
今日は、M&Aを使って法人税を数億単位で圧縮できる「資産調整勘定」の仕組みと、それが機能するための3条件をお伝えします。
15億のれんで5億の税が消えるカラクリ
M&Aで別の会社を買収すると、「のれん」が発生することがあります。のれんとは、その会社の純資産を超えて支払った金額のこと。ブランド力、顧客リスト、技術力といった目に見えない価値に対して払ったプレミアムです。
会計上は無形固定資産として計上し、20年以内に償却するのが原則。しかし税務の世界では、ここに重要な概念が登場します。それが**「資産調整勘定」**です。
事業譲受や合併の際に生じた資産調整勘定は、税務上5年間で均等に損金算入できます。
具体的な数字で考えてみましょう。15億円の資産調整勘定が発生した場合、年間3億円(15億÷5年)が損金になります。実効税率を30〜34%とすると、年間9,000万〜1億円の法人税が減少し、5年間の累計では4.5億〜5億円超の圧縮が実現します。
年間1億円の節税効果が5年間続く。これが「M&Aで5億の税が消える」と言われる理由です。
節税が機能する3つの条件
とはいえ、どんなM&Aでも使えるわけではありません。この仕組みが働くには、3つの条件をすべてクリアする必要があります。
条件① 株式買収ではなく、合併か事業譲受で行う
株を買って子会社にする方法(株式取得)では、税務上の資産調整勘定は発生しません。損金算入できるのれんを生み出すには、合併か事業譲受という手法を選ぶ必要があります。M&Aを検討する最初の段階から、スキームの選択を慎重に行ってください。ここを後から変えようとしても、手遅れになるケースがほとんどです。
条件② 損金を吸収できるだけの課税所得がある
年間3億円の損金が生まれても、そもそも課税所得が少なければ節税効果は薄れます。目安として、経常利益が年間3億円以上あると効果が出やすいと言われています。損金は「ある利益に対して当てて初めて意味を持つ」ものなので、規模感の確認が先決です。
条件③ 事業シナジーが明確にある
ここが最も重要です。「節税が目的」のM&Aは、税務署に否認されるリスクがあります。
「節税だけが目的」は35%の重加算税を招く
税務調査で「このM&Aに経済的実態がない」と認定されると、損金算入が全額否認されるだけでなく、**重加算税(35%)**が課される可能性があります。通常の過少申告加算税(10〜15%)と比べて、桁違いに重いペナルティです。
安全に節税効果を得るには、M&Aの事業目的を最初から明確にしておくことが不可欠です。たとえば、取得先の技術を自社製品に組み込む、販路を統合して売上シナジーを生む、人材・ノウハウを取り込んで事業を強化する――こういった実際の事業目的があってはじめて、税務上も認められます。
節税は「正しい経営判断の結果としてついてくるもの」という設計思想が鉄則です。
M&Aを検討するなら今が準備のタイミング
M&Aは会社の規模や方向性を大きく変える経営判断です。節税効果だけで意思決定するのは本末転倒ですが、「事業拡大を考えていた」「後継者問題を抱えた会社を引き受けたい」という局面があるなら、税務メリットも含めて専門家と一緒に設計することで、節税と成長を同時に実現できます。
スキームの選択(合併か事業譲受か、株式買収か)は後から変えることが難しく、ここを誤ると節税効果がゼロになります。M&A検討の初期段階から、税理士とM&Aアドバイザーを巻き込んで進めることを強くおすすめします。
年商10億を超えた今が、節税を「仕組み」として設計し始めるタイミングかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。