先日、創業28年の製造業オーナー社長からこんな相談を受けました。「そろそろ息子に会社を譲ろうと思っていて、退職金を3億用意する予定なんだけど……税金でいくら持っていかれるの?」と。
計算してみると、何の対策もしなければ手取りが想像以上に減ってしまいます。でも、正しい順序で準備しておけば、合法的に税負担をかなり圧縮できます。
今回は、役員退職金3億円を受け取るときに知っておくべき節税策を、重要度の高い順にBEST3でお伝えします。
3位|功績倍率3.0倍は「根拠の整備」があってこそ
役員退職金の計算式は「最終月額報酬 × 在任年数 × 功績倍率」です。社長の功績倍率の目安はよく3.0倍と言われますが、これは法律で認められた上限ではありません。税務調査で否認されにくいとされている目安値です。
つまり、3.0倍を使うとしても根拠が薄ければ否認されるリスクがあります。実際に「社長だから3倍」と一行書いただけの議事録で税務調査に入られ、一部を否認されたケースがあります。
必ず整備しておきたいのは2点です。同業他社の退職金相場を調査して記録しておくこと、そして取締役会議事録に功績倍率の根拠を具体的に記載しておくこと。退職直前に慌てて書類を整えるのは危険で、数年前から計画的に準備しておくのが理想です。
2位|在任20年超なら「退職所得控除」が大きく膨らむ
退職所得控除は、在任年数が長くなるほど有利になる仕組みです。在任20年を超えると、控除額の計算が「800万円+70万円×超過年数」に切り替わります。
30年在任していれば、800万円+70万円×10年=1,500万円の控除が受けられます。3億円から1,500万円を引いた残り(2億8,500万円)の半分だけに累進税率がかかる仕組みなので、課税対象は約1億4,250万円まで圧縮されます。
給与所得と違い、退職金は分離課税かつ2分の1課税という手厚い優遇があります。長く経営を続けてきた社長ほど、この制度の恩恵が大きいのです。
また、在任年数が20年と21年では控除額に70万円の差が生まれます。退職のタイミングを1年ずらすだけで税負担が変わることもあるので、あと何年で節目を迎えるかを意識しておく価値があります。
1位|分掌変更で「退職金を2回に分けて受け取る」
最も節税効果が高く、同時に最も慎重な設計が必要なのがこの方法です。
代表取締役から平取締役に「実態を伴う格落ち」をすると、そのタイミングで退職金を一度受け取れるケースがあります。その後、完全に退任した際にもう一度退職金を受け取ることで、課税を2回に分散できます。
ただし、「実態を伴う」という点が極めて重要です。名前だけ変えて実質的に代表として振る舞い続けているケースは、税務調査で否認される可能性が高い。実態として求められるのは、代表権の返上と権限の後任への引き渡し、役員報酬の大幅な減額(目安として50%以上)、そして日常業務の指揮命令系統が実際に変わっていることです。
書類だけでなく、経営の実態が伴っていることが大前提。この方法は独断で進めず、必ず税理士と綿密に設計してください。
役員退職金は、長年会社を支えてきた社長への「最後のご褒美」です。それを正しく手元に残すためには、退職の5〜10年前から計画的に動き出す必要があります。
「まだ先の話」と思っているうちに、取れる対策の選択肢が少しずつ狭まっていきます。今の段階から顧問税理士と退職プランを話し合い、少なくとも功績倍率の根拠整備と議事録の準備だけでも始めておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。