先日、30年以上会社を経営してきたある社長からこんな相談を受けました。
「退職金を3億円受け取ったのに、税金で1億円以上持っていかれた。こんなに取られるものなの?」
正直に言うと、設計を間違えれば、そうなるんです。でも、正しく設計すれば、同じ3億円でも税負担をぐっと抑えることができます。
退職金でも「受け取り方」で税負担が激変する
退職金は給与所得とは別に「退職所得」として扱われます。ただし、これは正しく手続きした場合の話です。
誤った処理をしてしまうと、最高税率55%の総合課税が適用されるケースもあります。3億円の退職金に対して実効税率30〜40%がかかれば、税負担は1億円を超えることも珍しくありません。
問題は、多くの経営者が「退職金=自動的に税金が安くなる」と思い込んでいる点です。実際には、正しい設計と手続きが不可欠なのです。
「退職所得控除」という強力な武器
退職金には、ほかの所得にはない「退職所得控除」という税制上の優遇措置があります。これが、退職金節税の核心です。
控除額は在任年数によって変わります。在任30年であれば1,500万円の控除が受けられます。しかもこの制度、控除後の残額に対して2分の1しか課税されません。
たとえば退職金が3億円、控除額が1,500万円なら、課税対象は(3億円-1,500万円)÷2=約1億4,250万円です。これを役員報酬として毎年受け取った場合と比べると、納税額の差は数千万円規模になることもあります。
功績倍率で退職金を「正しく設計」する
退職金の金額は、いくらでもいいというわけではありません。税務署が認める根拠が必要です。そこで使われるのが「功績倍率」という考え方です。
計算式はシンプルです。
退職金 = 最終月額報酬 × 在任年数 × 功績倍率
代表取締役であれば、功績倍率の目安は2〜3倍とされています。月額報酬100万円で在任30年、功績倍率3倍なら、退職金は3億6,000万円という計算になります。
この計算式に基づいて退職金を設計し、退職所得控除と組み合わせれば、数千万円単位の節税が現実的に狙えます。
確実に実行するための3つの事前準備
この節税を実現するには、いくつかの準備が欠かせません。
役員退職金規程の整備:規程がないと退職金の算定根拠が曖昧になります。功績倍率の基準や計算ルールを規程として文書化しておくことが大前提です。
株主総会での決議:退職金の支給には株主総会の決議が必須です。この手続きを踏んでいないと、損金算入が否認されるリスクがあります。
退職の実態を作る:名目だけの退職は認められません。代表を退いて顧問に就任するなど、実際に経営の第一線から退く実態が求められます。
先送りにするほど、選択肢が狭まる
退職金の設計は、受け取る直前に考え始めても間に合わないことがあります。月額報酬の水準や在任年数の積み上げが、受け取れる金額と税負担に直結するからです。
「まだ先の話」と思っているうちに、最適なタイミングを逃してしまっているケースは少なくありません。
まだ役員退職金規程を整備していないなら、在任年数のカウントが進んでいる今のうちに、顧問税理士と将来シミュレーションを組んでおくことをおすすめします。受け取り方ひとつで、手元に残るお金が数千万円変わるかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。