先日、創業40年を超える製造業の社長からこんな相談を受けました。

「そろそろ息子に会社を譲ろうと思っているんだが、退職金の税金ってどのくらいかかるんだろう。役員報酬と同じくらい持っていかれるのかな」

その社長、退職金として3億円を想定していました。「どうせ半分は税金でしょ」と半ば諦め顔だったのですが、実際に試算してみてびっくり。退職金には給与や配当とはまったく異なるルールが用意されていて、設計次第で手取りが8,000万円以上変わることをお伝えすると、「そんなに違うのか」と目を丸くしていました。

退職金の税計算は「二段階圧縮」が効く

退職金が税制上なぜ有利なのか。仕組みはシンプルで、課税対象を二段階で圧縮できるからです。

まず「退職所得控除」を退職金から差し引きます。勤続年数20年超の部分は1年あたり70万円の控除が使えるので、たとえば勤続43年の社長なら控除額は約2,400万円です。

次に、控除後の残額をさらに2分の1にした金額が、実際に課税される所得になります。これが退職所得の最大の特徴で、給与所得には絶対に使えない計算方法です。

具体的に試算してみましょう。退職金3億円、勤続43年のケースです。

退職所得控除は800万円+(43年−20年)×70万円=約2,410万円。3億円から引いた残りは約2億7,590万円。これをさらに1/2にすると、課税対象は約1億3,795万円になります。

同じ3億円を役員報酬として毎年受け取れば、全額が給与所得として最高税率55%(所得税45%+住民税10%)の対象になります。この差が積み重なると、8,000万円以上の税負担の違いになることも珍しくありません。

設計の要は「退職金規程」と「功績倍率」の二本柱

ただし、退職金の金額を自由に決めていいわけではありません。税務調査で否認されないためには、金額の根拠を示す仕組みが必要です。

退職金規程を整備することが第一歩です。「最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率」という計算式を規程に明記しておくことで、金額の妥当性を説明できます。規程がなければ、そもそも退職金として認められないリスクもあります。

功績倍率は、その名のとおり社長の功績をどう評価するかを示す数値です。法定の上限はありませんが、実務では2〜3倍が税務調査で否認されにくい目安とされています。3倍を超える場合は、業績や業界比較など根拠を文書に残しておくことが重要です。

ひとつ注意したいのは、退任直前に規程を急いで整備するのは避けたほうがいいということ。「退職直前に節税目的で作った」と判断されると、認められないケースがあります。理想は退任の2〜3年前から準備を始めることです。

事業承継と組み合わせると効果が倍増する

後継者への承継を考えている社長にとって、退職金は相続対策としても機能します。会社の内部留保を退職金として引き出すことで、自社株の評価額を下げられるからです。

「退職金で現金を受け取り、手元資金を生前贈与や保険で次世代に移す」という流れで設計すると、退職金の税優遇と相続対策を同時に実現できます。承継のタイムラインと合わせて、税理士と早めに全体設計を描いておくとよいでしょう。

「まだ先の話」が一番のリスク

創業社長の多くは、自分の退職を「もう少し先」と後回しにしがちです。でも退職金設計は、時間があるほど選択肢が広がります。規程の整備、功績倍率の根拠づくり、資金繰りの手当て——どれも一夜では完成しません。

まだ退職金規程を整えていないなら、今期中に一度「退職金設計」というテーマで税理士と話してみることをおすすめします。1〜2時間の打ち合わせが、数千万円の差を生む可能性があります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。