先日、年商10億円の製造業を経営している社長から、こんな相談を受けました。

「顧問税理士から『今の株の評価額のままだと、相続税だけで3億円を超えますよ』と言われて、夜も眠れなくなりました。今からでも何か手が打てますか?」

この一言が、持株会社の話をするきっかけでした。

事業会社の株を直接持ち続けることのリスク

社長が会社の株式をそのまま持っている場合、相続時の評価には「純資産価額方式」が使われるケースがあります。

この方式が怖いのは、会社が積み上げてきた内部留保や不動産の含み益が、そのまま評価額に反映されてしまう点です。含み益に対して法人税等相当額37%は控除されるとはいえ、長年かけて育てた会社の資産価値が丸ごと相続税の計算に乗ってくる。

年商10億円規模の会社であれば、相続税が3億円を超えるというのは、決して大げさな話ではありません。むしろ、何も対策をしていない社長の多くが、この問題に直面しています。

持株会社を使うと評価の仕組みが変わる

ここで登場するのが、持株会社(ホールディングス)スキームです。

社長が直接事業会社の株を持つのではなく、持株会社を設立してそこに株式を移転させ、資産構成を適切に設計することで、「類似業種比準価額方式」という評価方式が使える場合があります。

類似業種比準価額方式は、同業他社の株価と比較して評価するため、純資産価額方式と比べて大幅に評価額が下がるケースがあります。うまく設計できれば、株式評価額を60%程度圧縮できることもある。3億円の相続税が1億円台になるとしたら、真剣に検討する価値があると思いませんか。

スキームの全手順、4つのステップ

ただし、持株会社を作ればすぐ効果が出るわけではありません。大まかには次の4つのステップが必要です。

まず持株会社の設立です。既存の事業会社とは別に、新たな資産管理会社として設立します。形式は株式会社が一般的ですが、事業の規模や後継者の状況によって設計が変わります。

次に事業会社株の組織再編です。株式交換や会社分割などを活用して、事業会社の株式を持株会社に移転させます。ここは税理士と弁護士が連携して進める、最も専門性が求められるフェーズです。

3つ目が株式保有特定会社の回避です。持株会社の資産のほとんどが株式だと、「株式保有特定会社」と判定されてしまい、かえって評価が上がるという落とし穴があります。不動産や事業用資産を一定割合で保有させるなど、資産構成の調整が必要です。ここを軽視すると、せっかくのスキームが逆効果になりかねません。

そして最後が3年以上の継続運用です。

最大の落とし穴は「3年ルール」

税法上、組織再編後の3年間は純資産価額方式での評価が強制されます。つまり、スキームを整えてから効果が出るまでに、最低でも3年かかるということです。

これが「早期着手が命」と言われる最大の理由です。

60歳になってから相談に来た社長と、48歳のうちに相談に来た社長では、打てる手の数が全然違います。しかも株価は、会社が成長するほど上がっていく。売上が伸びるほど、先送りにするたびに評価額が膨らんでいくのです。「もう少し落ち着いてから」と言っている間に、手を打てる余地が狭まっていきます。

まず「今の評価額」を知ることから始める

持株会社スキームが自分に合っているかどうかは、会社の規模・資産構成・後継者の有無など、個別の事情によって大きく異なります。スキームが必要ない会社もあれば、別の対策が有効なケースもある。

ただ、第一歩はシンプルです。「今、自分の会社の株式評価額はいくらか」を税理士に試算してもらうことです。

「うちは関係ない」と思っていた社長が、試算結果を見て顔色が変わる——そういう場面を、私は何度も目にしてきました。まだ確認していないなら、今期中に一度、税理士に相談してみてください。対策は、現状を把握してからでも遅くはありません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。