先日、創業28年の卸売業を営む60代の社長から、こんな相談を受けました。「会社の業績は悪くない。でも、そのせいで相続の話が怖くて仕方ない」

業績が好調なのに不安を抱えている。そんな社長が実は珍しくありません。その正体は「株価の高騰」です。

株価20億円に55%がかかるリスク

会社の株式を個人で直接保有している場合、相続が発生すると、その株価がそのまま課税対象になります。

仮に株価が20億円まで成長していたとすると、相続税の最高税率55%が適用されるレンジでは、税額が10億円を超えることもあります。もちろん各種控除があるにしても、数億円単位の負担が相続人の肩にのしかかります。

現金なら分割して払えますが、非上場株式はそうはいきません。「株を売れ」ということになれば、それは会社の支配権を手放すことを意味します。長年かけて育ててきた会社が、相続税の支払いのために他人の手に渡る。これが、多くの創業社長が最も恐れているシナリオです。

持株会社を使うと、評価のルールが変わる

そこで有効な手法のひとつが、持株会社(ホールディングス)の活用です。

仕組み自体はシンプルです。現在、社長個人が直接保有している事業会社の株式を、新たに設立した持株会社に移す。それだけです。

ポイントは、この「移す」という操作によって、相続税の計算に使われる株式評価の方式が変わる可能性があることです。

個人が事業会社の株を直接持っている場合、業績が良く内部留保が厚い会社ほど株価評価は高くなります。一方、持株会社を経由すると、持株会社自体の株式評価において会社規模や資産構成が改めて計算され、評価額が圧縮されるケースが出てきます。

これは抜け穴でも脱税でもなく、税法が認めた評価方法の違いを、合法的に活用するものです。

実際に3億円以上の差が出た事例

持株会社スキームを活用した結果、個人保有のままで相続が発生した場合と比べて、相続税額が3億円以上変わった事例があります。

もちろん、この差がどれくらいになるかは会社の規模・業種・保有資産の内容によって大きく変わります。ただ言えるのは、「動いたかどうか」で億単位の差が生まれうる、ということです。

「あのとき相談しておけばよかった」と後悔する声を、私はこれまで何度も聞いてきました。

「作ればいい」ではなく、設計が9割

ただし、ここで必ず伝えなければならないことがあります。持株会社の設立は、「やりさえすれば節税になる」という話ではありません。

株式の移転手法には「株式交換」「現物出資」「会社分割」などいくつかの選択肢があり、それぞれ税務上の扱いが異なります。手法を誤ると、移転の段階で思わぬ課税が発生することもあります。

また、持株会社設立後のグループ内の資金移動や配当の設計を間違えると、想定外のコストが積み上がることもあります。設立費用や税理士報酬と、節税効果のバランスを慎重に試算することが不可欠です。

要するに、持株会社による相続税対策は「正しく設計すれば強力」ですが、「誰でも同じ効果を得られる魔法」ではありません。設計の質で、効果は大きく変わります。

動くなら、株価が上がりきる前に

相続対策全般に言えることですが、持株会社の活用も「早く動くほど有利」です。

株価がさらに上がってから移転しようとすると、移転にかかるコスト自体も膨らみます。そして何より、相続が発生してからでは手の打ちようがありません。「健康なうちに保険に入る」のと同じ論理です。

「うちはまだ早い」「そのうち考える」という社長ほど、いざというときに選択肢が狭まっています。会社の株価が億を超えてきたと感じたら、持株会社の検討を「今期の経営課題」として位置づけてほしいと思います。

まずは顧問税理士、あるいは事業承継を専門にしている税理士に「持株会社を使った場合の相続税試算」を依頼してみてください。数字を見てから判断しても、遅くはありません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。