先日、あるIT系企業の社長から「毎年けっこうなお金をシステム開発に使っているんですが、試験研究費の控除って使えますか?」という相談を受けました。
詳しくヒアリングしてみると、年間3億円近くをDX推進やシステム構築に投じているにもかかわらず、創業以来ずっと「試験研究費税額控除」を申告していなかったことが判明。単純計算で毎年3000万円規模の控除を、7年以上にわたって見過ごし続けていたことになります。
税額控除は節税の中の「最上位」
節税の手法にはいくつかありますが、効果が最も強力なのが税額控除です。経費を増やして利益を圧縮する方法とは、仕組みが根本的に異なります。
たとえば1000万円を経費にすれば、法人税率30%の会社では約300万円の節税になります。でも税額控除の場合、控除額がそのまま税負担の減額に直結します。1000万円の税額控除であれば、1000万円まるごと税金が減るのです。同じ「1000万円」でも、効果が3倍以上違うわけです。
DX投資やシステム開発費も「研究費」になる
「試験研究費」というと、製薬会社や製造業の研究室を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし実際の対象範囲は、もっと広いです。
自社サービスの機能改善を目的としたソフトウェア開発、業務プロセスを変革するためのDXシステムの構築、新規事業のプロトタイプ開発——これらも条件を満たせば試験研究費として認められるケースがあります。
研究費が3億円あれば、控除率にもよりますが3000万円規模の法人税控除が十分に現実的な数字になります。年商10億を超える会社が毎年この控除を申請せずにいるとしたら、相当なロスです。
過去5年分は「更正の請求」でまとめて取り戻せる
ここからが、より重要な話です。
過去の申告で試験研究費税額控除を使っていなかった場合、「更正の請求」という手続きで最大5年前までさかのぼって還付を受けられます。「今まで知らなかった」という会社でも、申告期限から5年以内であれば取り戻せる可能性があるのです。
仮に毎年3000万円の控除を5年間見逃していたとすれば、最大で1億5000万円の還付請求ができる計算になります。さすがに全額というケースばかりではありませんが、数千万円規模の還付が出た事例は実際に少なくありません。
「申告書への記載」がなければ一切ゼロ
ここが最大の落とし穴です。
試験研究費税額控除は、申告書に適用の申請を記載しない限り、一切適用されません。いくら研究開発に投資していても、いくら要件を満たしていても、記載がなければゼロです。税務署が自動的に計算して控除してくれるような制度ではないのです。
顧問税理士に決算を一任している場合でも、こちらから情報を提供しなければ見逃されることがあります。「うちのDX投資、試験研究費に該当するものはありませんか?」と一言投げかけるだけで、数百万円から数千万円の差が出ることがあります。
今期の申告前に「税額控除の棚卸し」を
3月決算の会社は、ちょうど今が申告の仕上げに入る時期のはずです。申告書を提出する前に、試験研究費税額控除をはじめとする税額控除の適用状況を一度確認してみてください。
確認すべきポイントは2つです。①今期の開発費・DX投資の中に試験研究費として計上できるものがあるか、②過去5年以内の申告に未申請のものがないか——この2点を顧問税理士に確認するだけで十分です。
申告が完了してしまうと、取り返せる機会が一つ減ります。「なんとなく使っていないけど大丈夫だろう」という思い込みが、何年も続いていることがあります。動くなら、今期の申告前です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。