先日、ある経営者からこんな連絡が届きました。「税理士に紹介されたM&Aのスキームで節税できると聞いたんですが、本当に大丈夫でしょうか?」と。

話を聞いてみると、欠損金を大量に抱えた会社を買収して節税しようという、いわゆる「M&A節税スキーム」でした。一見すると合法的な手法に見えますが、正直に言うと、このスキームは今かなり危ない領域に入っています。

税務署が「不当な租税回避」と判断できる根拠

多くの経営者が見落としているのが、法人税法132条の2という条文の存在です。「組織再編成に係る行為又は計算の否認」と呼ばれるこの規定、簡単に言うと「事業目的のない組織再編は税務署が否認できる」というものです。

節税目的だけで会社を合併・買収した場合、税務署はその取引を「なかったこと」として課税できる。これが法律上、明確に認められているんです。

否認されやすい2つのパターン

実務で特に問題になっているのが、次の2つのスキームです。

ひとつ目は、欠損金の引き継ぎを目的とした合併。赤字を抱えた会社を傘下に収め、その欠損金を自社の利益と相殺しようという手法です。ただし、支配関係が成立してから5年以内の合併は、事業関連性や事業規模の継続など厳しい要件が課されており、これをクリアできないケースが続出しています。

ふたつ目が、含み損会社の買収による損失計上。不動産や有価証券に大きな含み損を抱えた会社を買い、その損失を意図的に確定させるスキームです。2010年代に流行りましたが、今は税務署の目が特に厳しい類型のひとつです。

2020年以降、否認件数が急増している理由

国税庁の調査統計を見ると、組織再編税制に基づく否認件数は2020年以降、明らかな増加傾向にあります。背景には、2010年代後半に大量に組成されたスキームが、ちょうど調査対象期間に入ってきたことがあります。

「あの頃に導入したスキームが今さら…」という事態が、実際に各地で起きているわけです。

3億円追徴は現実の話

否認されたときの痛手が、想像以上に大きい。本来払うべき税額に加えて、**重加算税35%**が上乗せされます。さらに納付が遅れた期間分の利子税も発生するため、総額が3億円を超えるケースも珍しくありません。

仮に1億円の節税効果を期待したスキームで否認されれば、節税どころかそれをはるかに上回る追徴を受ける。これが現実です。

「税理士が設計したから大丈夫」は通用しない

よく聞くのが「専門家が設計したスキームだから問題ないはず」という言葉です。しかし、組織再編税制の否認規定は、設計者が税理士であっても適用されます。むしろ「プロが関与した計画的な租税回避」として、重加算税の対象になりやすいという側面もあります。

スキームを提案されたときに確認すべきは、「事業目的が説明できるか」という点です。節税以外に、なぜその合併や買収が必要なのか。この問いに明確に答えられない取引は、否認リスクが高いと考えてください。

もし既にスキームを導入済みなら

現時点でM&A節税スキームを活用している場合は、今すぐ導入時の税理士に「現在の税務調査トレンドを踏まえたリスク再評価」を依頼することをおすすめします。特に、支配関係成立から5年以内の合併が絡んでいるケースは優先度を高めて確認してください。

スキームを解消するか、事業目的を補強する証拠を整備するか、判断は個別の事情によりますが、「何もしない」が最もリスクの高い選択肢です。

M&A節税は、設計の巧拙よりも「事業実態があるかどうか」で勝負が決まります。節税の検討段階から、組織再編税制に精通した税理士に関与してもらうことが、結果的に一番コスト効率の良い選択だと思います。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。