先日、年商10億ほどの製造業の社長からこんな相談を受けました。「中国の子会社に製品を卸しているんですが、この価格の決め方って税務調査で問題になることありますか?」
この質問、実はとても重要なタイミングで来たと思いました。海外の関連会社との取引がある会社は、移転価格税制というリスクを必ず押さえておく必要があるからです。知らなかったでは済まない制度なんです。
「価格が安すぎる」と税務署が独自に算定し直す
移転価格税制とは、海外の関連会社との取引価格が「市場の実勢価格から乖離している」と税務当局が判断したとき、独自の価格で課税し直す制度です。
親会社から海外子会社へ商品を安く売れば、利益が低税率国に積み上がりますよね。それを防ぐのがこのルールの趣旨です。ただ怖いのは、「意図してないのに」狙われるケースが増えているという点です。
税務署側の算定に反論できる証拠がなければ、そのまま追徴が確定してしまいます。1件で5億円超の追徴が出た事例は、もはや珍しい話ではありません。
調査件数は年率20%超のペースで急増している
国税庁の統計を見ると、移転価格に関する調査件数はここ数年で急激に増えています。増加率は年20%を超えており、もはや大手企業だけの問題ではありません。
特に調査で狙われやすいのは、次の3種類の取引です。
- 海外子会社への業務委託料(管理サービス料・コンサルティング料など)
- ブランドや技術ノウハウに対するロイヤリティ
- グループ間での商品・原材料・製品の売買取引
「うちはちゃんと市場価格でやっている」と思っていても、それを証明する文書がなければ意味がありません。文書がないと、税務署の算定をそのまま受け入れるしかなくなってしまうんです。
対策は「文書化」と「事前合意」の2本柱
移転価格リスクへの対策は、実はシンプルに2つに集約されます。
ひとつ目は、ローカルファイル(文書化)の整備です。
移転価格税制では、海外関連取引の価格が「独立した第三者間でも成立する価格かどうか」を示す義務があります。そのための資料が「ローカルファイル」と呼ばれるものです。売上高が一定規模を超える会社には法的な作成義務があり、未整備の場合はそれだけで加算税のリスクが跳ね上がります。
文書化は「保険」です。調査が入ったとき、ローカルファイルが整っていれば「この価格設定には根拠があります」と反論できます。なければ、税務署の計算がそのまま確定します。
ふたつ目は、APA(事前確認制度)の活用です。
APAとは、「この価格設定方法で問題ないですよね」と税務当局に事前に確認してもらう制度です。調査が来る前に合意を取っておけば、後から「価格が不適切だった」と覆されるリスクがゼロになります。
手続きに1〜3年かかるケースもありますが、大規模な海外取引が継続的にある会社なら、早めに動いておく価値は十分あります。
「うちは適正にやっている」だけでは守れない
移転価格の世界で一番怖いのは、「正しくやっている」という自信があっても、それを証明する資料がなければ意味がないという現実です。
取引価格の妥当性を示す文書がなければ、どれだけ経営者が「適正だ」と訴えても、税務署の計算が優先されます。追徴が5億になれば、会社のキャッシュフローに直撃します。
海外子会社との取引がある場合は、まず「どんな取引が発生しているか」を棚卸しして、国際税務の専門家に現状を見てもらうことをおすすめします。移転価格は国内の税務とは別のノウハウが必要な領域です。通常の税理士ではなく、国際税務を専門とする事務所に相談することが重要です。
文書化がまだ手つかずなら、次の税務調査が来る前に、一度専門家に状況を確認してもらってください。後手に回ると選択肢が一気に狭まります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。