先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。
「年商が10億を超えたあたりから、毎年の税負担が億を超えてきて……もっと何かできることはありませんか?」
よく話を聞いてみると、役員報酬はほぼ全額を社長ご自身に集中させていて、奥様はパートとして月10万円程度を受け取っているだけ、という状況でした。
この構造に、じつは億単位の節税余地が眠っています。
個人55%と法人34%——21%の「税率の差」が生むもの
役員報酬を1人に集中させると、所得税・住民税・社会保険料を合わせた個人の実効税率は最大55%に達します。一方、法人実効税率はおよそ34%。
この21%の差、金額が小さければ大した話ではありません。ところが報酬の原資が大きくなるにつれ、この差は一気に現実味を帯びてきます。
報酬の原資が20億規模になると、税率差だけで4〜5億の圧縮が現実のものになります。「5億節税」と聞くと驚くかもしれませんが、ロジックは単純です。高い税率で個人が受け取り続けるより、低い税率の法人に残したり、複数人・複数法人で分散して受け取ったりする方が、トータルの税負担が下がる——それだけの話なのです。
核心は「持株会社×複数法人への役員分散就任」
この節税を実現する設計の中心が、持株会社を軸にした複数法人への役員分散就任です。
ざっくりしたイメージをお伝えします。
まず、社長が100%出資する持株会社(ホールディングス法人)を設立します。その持株会社が事業会社の株を保有し、グループ全体のコントロール機能を担う形にします。
各事業会社には配偶者・子・信頼できる幹部等を役員として就任させ、それぞれに妥当な報酬を設定します。社長自身も複数社の代表や取締役を兼任し、各社から分散して報酬を受け取る。
こうすることで、1人に集中していた高課税の塊が複数人・複数法人に分かれ、累進課税の「急峻な部分」に当たる報酬が減っていく。結果としてグループ全体の実効税率が下がり、手元に残るお金が増える、という仕組みです。
「名前だけの役員」は必ず否認される
ここで絶対に外してはいけない注意点があります。
税務調査で真っ先に狙われるのが、「実態のない役員就任」です。名前だけ取締役に載せて報酬を払っても、「その人物が実際にどんな職務を果たしているか」が厳しく問われます。
実態がなければ、その報酬は経費として認められません。否認のうえ、追徴課税と加算税がセットでついてきます。節税どころか、余計なダメージを受けるだけです。
実態要件として最低限押さえておきたいのは、次のような点です。
- 各社における具体的な職務内容の明確化(「取締役会に出席しているだけ」では弱い)
- 業務遂行の記録を定期的に残すこと
- 取締役会議事録・報酬決定に関する書類を適正に整備すること
- 報酬額が職務内容に見合った、世間的に妥当な水準であること
形式だけ整えても調査で崩されます。大切なのは「実態を先に作り、それを記録で裏付ける」という順番です。
設計の難しさは税率計算より「実態の作り方」にある
ここまで読んで、「よし、配偶者を役員にしよう」と思った社長もいるかもしれません。
ただ、実際の設計でいちばん難しいのは税率の計算ではありません。「誰に、どんな職務を担ってもらうか」という実態設計です。
配偶者には何を担当してもらうか。子どもが役員に就任できる年齢・経験に達しているか。各法人の職務分掌をどう切り分けるか。こうした実務的な段取りが節税の成否を大きく左右します。
税理士との連携は前提として、社内の役割分担の見直しやドキュメント整備も並行して進める必要があります。「今期中に完了させる」という性質のものではなく、1〜2年かけて丁寧に構築していく案件だと思っておいた方がいいでしょう。
今動き出した社長が得をする
年商5億〜10億を超えてきた社長に伝えたいことがあります。今の報酬設計のまま会社を大きくし続けると、取り返しのつかない税負担の積み上がりになる、ということです。
持株会社の設立や役員体制の見直しは、早ければ早いほど長期にわたる節税効果を積み上げられます。逆に「まだうちには関係ない」と後回しにするほど、取り戻せない機会損失になります。
「うちはまだそのレベルじゃないかも」と感じている社長も、まずは顧問税理士にこの設計の視点で相談してみてください。話を聞くだけでも、今後の意思決定が変わってきます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。