先日、ある社長からこんな相談を受けました。「不動産、全部個人名義で10棟持ってるんですが、特に問題ないですよね?」
そのひと言を聞いて、正直ゾッとしました。
資産総額は15億を超えているのに、保有構造はほぼ無防備。このまま10年過ごせば、相続税・所得税・譲渡益の三重課税で、ざっくり3億円は余分に払う計算になります。知っている社長と知らない社長の差が、静かにここで開いていきます。
個人名義のまま持ち続けると何が起きるか
不動産を個人名義で保有していると、毎年の家賃収入はそのまま個人の総合課税に乗ります。
年収が高い社長ほど、不動産所得も最高税率(所得税+住民税で最大55%)の世界に突入します。月50万円の家賃収入があっても、手元に残るのは半分以下という状況が何年も続くわけです。
問題は「今」だけではありません。将来の相続時には、その不動産の評価額がそのまま相続財産に計上されます。路線価ベースで数億になる物件を子に引き継がせるとなると、相続税の負担は想像を絶するものになります。
事業会社に不動産を直保有させているケースも同様です。売却時には法人税がかかり、その後に個人へ資金を移そうとすると配当課税まで発生します。二重どころか三重の課税構造になっていることも珍しくありません。
SPC(特別目的会社)を使うと何が変わるか
節税に精通した社長が活用しているのが、不動産を保有するためだけに設立する「SPC(特別目的会社)」です。
要するに、不動産の器(法人)を本業の事業会社から切り離して、課税構造をコントロールできる状態にする手法です。効果は大きく3段階で考えると整理しやすいです。
第一の効果は、相続時の株式評価圧縮です。 不動産そのものを相続させるより、SPCの株式を相続させるほうが、評価額を圧縮できるケースがあります。同じ資産でも課税対象となる評価額が数割変わることもあり、ここだけで数千万円単位の差が出ます。
第二の効果は、役員報酬による所得分散です。 SPCから配偶者や子どもを役員として報酬を支払うことで、家族全体の税負担を下げられます。個人で家賃収入を丸ごと受け取るより、分散した方が合計税額は少なくなります。
第三の効果は、売却時の出口設計です。 個人や事業会社で不動産を売ると「不動産の譲渡益課税」が適用されますが、SPC株式を譲渡する形で出口を設計すると「株式譲渡益課税」に切り替わるケースがあります。税率や課税タイミングが変わることで、手元に残る金額が大きく変わります。
「3億の差」が現実に起きるしくみ
評価額10億円の不動産を個人名義で保有したまま相続が発生したとします。相続税の実効税率は資産規模によって異なりますが、数億円規模の相続税負担になるケースは珍しくありません。
同じ物件をSPCで保有していた場合、株式評価の圧縮効果・ローンの取り込み方・役員報酬での事前分散などを組み合わせることで、累計の税負担が数億円単位で変わってきます。
10年という時間軸で見ると、毎年の所得税の差、将来の相続税の差、売却時の差が積み上がります。「3億の差」はあながち大げさな数字ではないのです。
「今さら変えられない」は思い込みです
こういう話をすると、「もう何年も個人名義で持っているから今さら変えられない」とおっしゃる社長がいます。でも、これは思い込みです。
不動産を法人に移す際には、不動産取得税や登録免許税といった移転コストがかかります。コストゼロで組み替えることはできません。ただし、長期保有を前提にした試算をすれば、移転コストを払ってでも組み替えた方が得になるケースがほとんどです。
重要なのは「今日の移転コスト」と「10年・20年のトータル税負担」を比較して判断することです。時間軸を変えるだけで、答えはまったく違って見えてきます。
まず確認すべき4つのポイント
保有構造を見直す前に、以下を整理しておくと話がスムーズに進みます。
- 現在の保有名義(個人・事業会社・資産管理会社・SPC)
- 不動産のローン残高と純資産の状況
- 家族への報酬設計の余地(役員・従業員)
- 将来の相続・事業承継のタイムライン
これらを整理した上で、SPC設計の試算を税理士と一緒に行うことで、初めて「移転すべきかどうか」の判断ができます。
まだ不動産の保有構造を一度も見直したことがない社長は、今期の決算が終わったタイミングで、専門の税理士に「SPC活用の可否」を相談してみてください。時間をかければかけるほど、取り戻せない税負担が積み上がります。動けるうちに動くことが、最大の節税です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。