先日、資産規模30億円の老舗製造業オーナーから、こんな相談を受けました。

「顧問税理士から持株会社スキームを勧められているんですが、本当に大丈夫ですか?」

その場で、私は率直に答えました。「スキーム自体は合法です。ただ、使い方を間違えると国税に丸ごとひっくり返されるリスクがあります」と。今日は、多くの資産家が見落としている、持株会社スキームの崩壊リスクについてお話しします。

合法でも否認される「総則6項」という切り札

持株会社スキームとは、自社株を持株会社に移転することで、相続時の株価を引き下げる手法です。うまく設計すれば、相続税を大幅に圧縮できます。

しかし国税庁には、「総則6項」と呼ばれる切り札があります。

相続税の財産評価は、「財産評価基本通達」のルールに基づいて計算されます。路線価や株式の評価方法など、細かいルールが定められています。ところがその通達の第6項には、こう書かれています。「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と。

噛み砕くと、「節税目的が主だと判断したら、通常の時価に引き直すことができる」という国税の権限です。

最高裁も認めた「否認」の現実

これは絵空事ではありません。2022年、最高裁判所がこの総則6項による課税処分を認める判決を下しました。

事案の概要はこうです。相続直前に金融機関から多額の融資を受けて不動産を購入し、路線価評価で財産を大幅に圧縮した後、相続が発生しました。国税はこれを総則6項で否認。路線価ベースの評価を時価に引き直し、億単位の追徴課税が発生しました。

最高裁は「節税目的が主で、通達評価によることが実質的な租税公平主義に反する」として、国税側の主張を認めたのです。持株会社スキームも、まったく同じリスクを内包しています。

特に狙われやすい「相続前3年以内」の動き

国税が目を光らせているのは、相続開始前3年以内に行われた大型の資産組替です。

直前の行為ほど節税目的が明らかと判断されやすく、以下のような動きは特に警戒されます。

  • 持株会社への大規模な事業・資産の移転
  • 相続直前の不動産・金融商品の大量購入
  • 株価を下げるための意図的な組織再編
  • 複数の節税スキームの重ね掛け

30億円の資産があれば、相続税の基礎控除はせいぜい数千万円。スキームが崩壊した場合、数億円から十数億円規模の追徴課税になることも珍しくありません。相続前3年以内の大型の動きは、特に慎重に考えてほしいポイントです。

「形式合法」では守ってくれない

多くの方が誤解されているのですが、「法律で禁止されていない」ことと「税務上否認されない」ことは、別の話です。

総則6項は、まさにそのグレーゾーンを国税が埋めるための道具です。スキームが合法的に設計されていても、「実質的に租税回避が目的」と判断されれば適用されます。

ひとつ、チェックポイントとして問いかけてみてください。「このスキームは、節税以外の事業目的を説明できますか?」持株会社化であれば、グループ経営の効率化、事業承継のしやすさ、リスク分散といった合理的な理由がなければ、節税目的が主と見られる可能性が高まります。

実行前にやるべき「事前検証」3つ

持株会社スキームを検討されているなら、実行前に必ずやっておいてほしいことがあります。

税務弁護士のセカンドオピニオンを取る。 顧問税理士だけでなく、税務訴訟に詳しい税務弁護士に総則6項リスクを評価してもらいましょう。費用は数十万円かかりますが、億単位のリスクへの保険と考えれば安いものです。

事業目的を文書化する。 持株会社化の「節税以外の理由」を取締役会議事録や社内文書に明確に残してください。節税が主目的でないことを示す証拠になります。

タイミングを逆算して設計する。 スキームを実行するなら、相続開始の少なくとも3〜5年前に完結させることが望ましいです。直前の大型組替は最もリスクが高い。これだけは覚えておいてください。

資産が大きければ大きいほど、スキームが崩壊したときのダメージも甚大です。「合法だから大丈夫」という過信が、最も危険な落とし穴です。持株会社スキームを検討されているなら、ぜひ一度、税務弁護士を交えた事前検証をされることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。