先日、ある社長からこんな言葉を聞きました。
「毎年1億円取っているのに、手元に残るのが4,000万円ちょっとしかない。なんで半分以上持っていかれるの?」
思わず苦笑いしてしまいましたが、これは決して珍しい話ではありません。役員報酬の「もらい方」を知らないと、稼げば稼ぐほど税金に持っていかれる構造になってしまうのです。
役員報酬だけで年収1億円を取ると、手取りはいくら?
役員報酬は「給与所得」として課税されます。日本の所得税は最高税率45%、これに住民税10%が加わって実効税率は55%。さらに健康保険や厚生年金などの社会保険料も上乗せされます。
年収1億円を役員報酬として受け取った場合、手取りは実質40%台前半——4,200〜4,500万円程度になることも珍しくありません。
「稼いだうちの半分以上が税金と社保で消える」。これが役員報酬オンリーの現実です。
知っている社長は「配当」に振り替える
一方、会社の利益を配当として受け取る場合は話が変わります。
配当所得は申告分離課税が選べて、税率は所得税15.315%+住民税5%=20.315%のみ。しかも社会保険料の対象外です。
役員報酬の実効税率55%と比べると、その差は歴然です。年収1億円規模であれば、この税率差だけで数千万円の違いが出てきます。
ポイントは「役員報酬をゼロにする」のではなく、「最適な比率を設計する」ことです。役員報酬には一定の存在意義があります。会社の損金に算入できますし、社会保険の給付を受ける基盤にもなります。
「どちらかを選ぶ」のではなく、「どう組み合わせるか」が勝負です。
年2,000万円の差はどこから生まれるか
具体的な数字で考えてみましょう。
年間1億円を全額役員報酬で受け取る場合、実効税率を50%とすると手取りは約5,000万円です。一方、最適な比率を設計して配当と組み合わせると、実効税率を30〜35%程度まで下げられるケースがあります。1億円に対して3,000〜3,500万円の税負担となり、その差は1,500〜2,000万円規模になることも。
さらに社会保険料の削減分も加わると、年間2,000万円超の差が生まれることが現実としてあります。
「知っているか、知らないか」だけで、これだけの数字が変わるのです。
比率設計で気をつけたい2つのポイント
ただし、何でも配当に振り替えればいいかというと、そう単純ではありません。
ひとつ目は、会社に十分な利益があること。 配当はあくまで会社の税引き後利益から出します。法人税を払った後のお金が原資です。役員報酬なら会社の損金になりますが、配当は損金になりません。この違いが、最適解を大きく変えます。
ふたつ目は、住民税の申告方法。 配当所得の住民税を申告した場合、国民健康保険料に影響するケースがあります。状況によっては社保を維持した方が有利になる場面も。法人税率・所得税率・社会保険の3つを同時に考えることが必要です。
「最適比率」は毎年見直すもの
役員報酬の金額は、決算から3ヶ月以内に決めなければなりません(定期同額給与の原則)。一度決めたら原則として期中に変更できないため、「去年と同じでいいや」という感覚でいると、業績変化や税率の見直しで最適解がズレていきます。
毎年の決算前に、報酬設計を見直す習慣を持っておくことが大切です。年1億円を超える収入がある方は特に、一度専門家と一緒にシミュレーションしてみると、意外なほど明確に「自分にとっての最適比率」が見えてきます。
年2,000万円の差は、特別な節税スキームではありません。制度の正しい使い方を知っているかどうか、それだけの差です。まだ配当との組み合わせを設計していないなら、今期の決算前に一度税理士と数字を整理してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。