先日、年商12億円の製造業を経営する社長から、こんな相談を受けました。
「税理士から持株会社の話を聞いたことはあるんですが、正直よくわからなくて。うちみたいな規模にも関係あるんですか?」
話を聞いてみると、15年間ずっと1社で事業を回してきた。売上は順調に伸び、利益も年間2億円以上出ている。でも法人の設計は創業当時のまま、一度も見直したことがないというのです。
正直に言います。このままでは毎年何千万円もの税金を、払わなくていいのに払い続けることになります。
1社完結のまま稼ぎ続けると、税率は34%に固定される
日本の法人税は、課税所得が800万円を超えると実効税率が一気に約34%に跳ね上がります。中小法人の軽減税率は年間800万円以下の部分にしか適用されないからです。
年間利益が2億円なら、そのほぼ全額に34%の税率がかかる計算です。手残りの悪さは、1社だけで事業を完結させている限り、構造的に変えようがありません。
ところが、持株会社(ホールディングス)を頂点に据えたグループ構造にすると、話がまったく変わってきます。
受取配当が「非課税」になる、という設計
持株会社とは、子会社の株式を保有することを主な目的とした会社のことです。親会社が子会社の株式を100%保有し、子会社が稼いだ利益を配当として親会社に上げる——この流れを設計することで、節税の余地が大きく広がります。
ポイントになるのが「受取配当等の益金不算入制度」です。
完全子会社からの配当は、親会社の課税所得に含めなくていい。つまり、子会社が1億円の利益を出して配当として親会社に渡しても、親会社では原則として非課税で受け取れるのです。グループ内での利益移転が課税なしでできる——これが持株会社設計の最大のメリットです。
年間利益2.5億円なら、差は5,000万円になる
所得の分散という観点でも、大きな効果があります。
1社で2.5億円の利益が出ていた場合、実効税率34%で約8,500万円の法人税がかかります。これをグループ設計で複数法人に分散できれば、一部の法人では800万円以下の軽減税率(約15%)が適用できます。税率差は最大で約20%。2.5億円の利益規模に対して計算すると、最大5,000万円の税負担差が生まれる計算になります。
もちろん、利益の全額を軽減税率にできるわけではありません。ただ「構造を変えるだけで、何千万円もの税負担が変わりうる」という事実は、知っておいて損はないはずです。
役員報酬も内部留保も、一気に最適化できる
持株会社設計のメリットは、税率差だけではありません。
役員報酬を複数の法人から分散して受け取ることで、個人の所得税の累進課税も緩和できます。また、事業法人にキャッシュを積み上げるよりも、持株会社に内部留保を集約することで、グループ全体の資金を戦略的にコントロールしやすくなります。
投資・事業拡大・相続対策など、次の一手を打ちやすい体制が整う——これは決して大企業だけの話ではありません。年商5〜10億円規模の中堅企業こそ、真剣に検討すべきテーマです。
ただし、設計ミスは取り返しがつかない
ここで一つ、大事なことをお伝えしなければなりません。
持株会社への移行は、やり方を間違えると逆効果になることがあります。株式移転・株式交換・会社分割など、移行の手法は複数ありますが、税制適格要件を満たさなければ移行時に課税が発生します。既存の契約関係、金融機関との取引、許認可の承継——考慮すべき要素は多く、設計が甘いと後から修正がきかないケースも珍しくありません。
「とりあえず持株会社を作ればいい」という話ではないのです。自社の利益水準・株主構成・将来の事業展開・承継プランを整理した上で、専門家と一緒に設計することが不可欠です。
売上が積み上がり、利益も安定してきたなら、そろそろ法人の「器」を見直す時期が来ているかもしれません。今の設計が、10年後の手残りを数億円単位で左右します。
まだグループ設計を考えたことがないなら、まず信頼できる税理士に「うちの法人設計、このままでいいですか?」と一度ぶつけてみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。