先日、シンガポールに現地法人を持つ貿易会社の社長から、こんな相談を受けました。「3年前にコンサルから勧められたスキームをずっと使っているんですが、最近なんとなく不安で……」
その社長、表情はどこか晴れないまま続けます。「国税が動き出しているって話を聞いて。うちは大丈夫ですかね?」
結論から言うと、その不安は正しいです。海外節税スキームは今、過去に例がないほど厳しい包囲網の中に置かれています。そして怖いのは、「3年前に合法だったスキームが、今も安全とは限らない」という現実です。
第3位|CRS——シンガポールの口座残高まで、国税は把握している
CRS(共通報告基準)とは、参加国の税務当局が金融口座情報を自動的に交換する国際的な仕組みです。2023年時点で、参加国はすでに100カ国を超えています。
シンガポール、香港、ドバイ、ケイマン諸島——かつて「節税の聖地」と呼ばれた国々のほぼすべてが、このCRSに参加済みです。つまり、毎年9月、これらの国々にある口座の残高や利子収入が、日本の国税庁に自動通知されているということ。
「プライベートバンクだから情報は漏れない」というのも、もはや過去の話です。スイスのプライベートバンクでさえ、CRS以降は情報提供に応じています。「バレないだろう」という前提で設計されたスキームは、この時点でもう根底から崩れています。
第2位|タコツボ規制——実態なき海外法人への利益移転は、日本で課税される
「海外に法人を設立して利益を移す」という手法は、かつては有効な節税策でした。しかし今、「外国子会社合算税制」——通称タコツボ規制がこれを封じています。
仕組みをひと言で言うと、実態のない海外法人に利益を移転しても、その利益は日本の親会社の所得に合算して課税される、というルールです。「実態がある」とみなされるためには、現地に本物のオフィスがある、現地スタッフが実際に業務を行っている、意思決定が現地で行われている——これらをすべて証明できる必要があります。
問題なのは、これが「事後的に」適用されることがあること。設立から数年が経ち、多額の利益を蓄積した後に指摘を受けると、重加算税35%が上乗せされます。悪質と判断されれば刑事罰の対象になることも。数年前に「節税のつもり」で始めたスキームが、気づけば脱税として扱われていた——そういうケースが実際に起き始めています。
第1位|BEPS規制——OECDが主導する「節税封鎖」は段階的に強化される
最も影響が大きく、かつ今後さらに効いてくるのがBEPS規制です。BEPSは「税源浸食と利益移転」の略で、OECDが主導する国際的なルール統一の枠組みを指します。
象徴的なのが、2024年に施行が始まった「グローバルミニマム税」。年間売上7,500億円以上(連結)の多国籍企業に対し、実効税率が15%を下回る場合は差額を課税するというものです。「うちには関係ない」と感じるかもしれませんが、話はそこで終わりません。
BEPSが各国に求めているのはルールの整合性です。大企業向けに導入された規制が中堅・中小に波及するのは、過去の税制改正を見ても時間の問題です。タコツボ規制の強化も、このBEPSの流れの中で起きてきたことです。そして最も恐ろしいのは、「今は問題のないスキームが、数年後の規制強化で遡及的に問われる可能性がゼロではない」という点です。
今すぐ確認すべき2つのこと
海外節税スキームを使っているなら、今すぐ動いてほしいことが2つあります。
ひとつは、そのスキームを設計したコンサルタントや税理士に「CRS・タコツボ規制・BEPSの観点でスキームを再評価してほしい」と依頼すること。3年前に設計されたスキームが、現在の規制環境に対応しているかどうかを確認してもらう。これは義務です。
もうひとつは、国際税務を専門とする税理士のセカンドオピニオンを取ること。海外節税は一般的な税務知識では対応しきれない領域で、専門家のレビューなしで運用を続けるのはリスクが高すぎます。
今のスキームをすぐに解体する必要があるかどうか、それは専門家と話してみなければわかりません。ただ、「自分のスキームが今の規制に照らして安全かどうか」を把握しないまま運用を続けることだけは、やめてください。スキームを使い始めた3年前と、今の国際課税の環境はまるで別物です。そして今から3年後も、また別の環境になっているはずです。
心当たりのある社長は、まず国際税務の専門家に相談することから始めてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。