先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。

「税理士に相続税の試算をしてもらったら、自社株だけで8億円の評価が出て、もう手の打ちようがないって言われたんです」

年商4億円、地域でも信頼される優良企業を30年かけて育て上げてきた田中社長(仮名)の話です。会社は順調なのに、このまま何もしなければ子どもたちに重い相続税の請求書だけが届く。そんな状況に、正直途方に暮れていました。

でも結論から言うと、この問題には「手の打ちようがある」のです。今回は、田中社長が実際に活用した持株会社スキームについて、できるだけわかりやすくお伝えします。

自社株の評価がなぜあんなに高くなるのか

業績が良い会社ほど、自社株の評価額は高くなります。これは喜ばしいことであると同時に、相続の場面では頭の痛い問題になります。

中小企業の株式評価には「類似業種比準方式」や「純資産価額方式」などが使われますが、特に内部留保が厚い会社は純資産価額が膨らみやすく、評価額が実態以上に高くなるケースも少なくありません。

田中社長の場合まさにそれで、手元の現預金や設備の帳簿価額が積み上がった結果、年商4億円の会社なのに株式評価が8億円という状況になっていました。

持株会社を使うと評価が変わる理由

ここで登場するのが「持株会社スキーム」です。

仕組み自体はシンプルです。既存の事業会社(オペレーティングカンパニー)の上に、新たに資産管理専用の持株会社(ホールディングス)を設立します。社長はこの持株会社の株式を保有し、持株会社が事業会社の株式を保有するという二層構造にするわけです。

なぜこれで評価が下がるのか。ポイントは「純粋持株会社」の評価方式にあります。

持株会社は自分では事業を行わず、子会社株式を保有するだけの会社です。この場合、持株会社の株式評価は「保有している子会社株式の価値」をベースに計算されますが、その際に一定の評価減が適用されます。具体的には、子会社株式を純資産価額で評価する際に、含み益に対して37%の法人税相当額が控除されるのです。

田中社長のケースでは、この評価方式の変化により、株価がおよそ40%圧縮されました。8億円あった課税対象が、約3億円以上削減されるという結果につながったのです。

役員報酬の分散で法人税にも効く

持株会社スキームのメリットは、相続税対策だけにとどまりません。

事業会社から持株会社へ配当を流し、持株会社から社長や後継者に役員報酬を支払う設計にすることで、所得の分散効果が生まれます。一つの法人に利益が集中するよりも、グループ全体で見たときの税負担を平準化しやすくなるのです。

また、持株会社を経由することで、事業リスクと資産を切り分けられるという経営上のメリットもあります。万が一、事業会社側で何か問題が起きても、資産管理会社に影響が及びにくくなるという構造です。

設計を間違えると逆効果になる

ここで必ず伝えなければならない注意点があります。

持株会社スキームは「やり方次第で逆効果になる」可能性があるという点です。

たとえば、持株会社が事業を行っていると判断された場合、純粋持株会社としての評価減が適用されないことがあります。また、設立の順序や株式の移転方法を誤ると、みなし贈与や譲渡所得の課税が発生するリスクもあります。

税務調査の観点からも、スキームの目的や実態が重要視されます。「節税のためだけに作った会社」と見なされないよう、持株会社としての実態を整備しておく必要があります。

このスキームは、設計段階から事業承継に詳しい税理士と二人三脚で進めることが絶対条件です。田中社長も、最終的には専門家チームを組んで1年以上かけて設計・実行しました。

今すぐ動くべき理由

相続税対策は「時間」が最大の武器です。

持株会社を作ってからでも、株価が下がった状態で少しずつ後継者に株式を移転していくことができます。早く始めるほど、贈与を分散できる年数が増え、納税額を抑えやすくなります。

反対に、手をつけないまま時間が経つと、会社の評価がさらに上がり、対策の選択肢が狭まっていくことになります。

「うちはまだ早い」と感じている社長ほど、一度だけでも専門家に試算をお願いしてみてください。田中社長も最初は「自分には関係ない話」と思っていたそうです。

自社株の評価額を一度きちんと確認するところから、すべては始まります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。