先日、年商8億円の建設会社を経営する50代の社長からこんな相談を受けました。「うちの顧問税理士に自社株の評価額を聞いたら、5億円近いと言われた。正直、自分が死んだらどうなるのか、考えたくなかった」と。

その気持ち、よくわかります。でも、考えたくないからこそ、一番リスクが高い状態のまま放置されているケースが多いんです。

自社株は「会社の財産」ではなく「社長個人の財産」

多くのオーナー社長が見落としているのが、この視点です。会社の業績が上がれば上がるほど、自社株の評価額も膨らんでいきます。年商10億円を超えるような会社では、株価評価が数億〜数十億円に達することも珍しくありません。

そして社長が亡くなった瞬間、その株は相続財産として遺族のもとに移ります。問題はその後です。相続税の申告期限は10ヶ月。遺族がその納税資金を用意できなければ、株を売却するか、最悪の場合は分散してしまう。会社の支配権が揺らぐのはそういうタイミングです。

実際に、創業社長の急逝後に相続人同士で株が分かれてしまい、経営の意思決定が機能しなくなった会社を私は複数件知っています。

対策の柱は「評価を下げる」「資金を準備する」「権限を守る」の3つ

難しく聞こえるかもしれませんが、やることは意外とシンプルです。順番に整理しましょう。

① 持株会社を使って株価評価を圧縮する

自社株の評価額が高い一番の原因は、会社に現預金や不動産などの資産が積み上がっていることです。そこで有効なのが持株会社(ホールディングス)の活用です。

事業会社の株を持株会社に移し、グループ全体の資産構成を組み替えることで、評価額を合法的に引き下げることができます。うまく設計すれば、評価額を3〜4割圧縮できるケースもあります。

ただし、持株会社の設立には税務・法務の両面で緻密な設計が必要です。やみくもに作るだけでは意味がないので、専門家との連携が前提になります。

② 生命保険で納税資金を「先手」で確保する

相続税の納税資金対策として、今でも最もシンプルかつ確実なのが生命保険です。保険金は受取人固有の財産として扱われるため、遺産分割の対象になりません。つまり、「この保険金を相続税の支払いに充てる」という設計があらかじめできるわけです。

株価評価が3億円あるなら、それに対応する納税額は数千万〜1億円超になることもあります。その分をカバーできる保険設計を今のうちに組んでおく。これだけで遺族の選択肢がまったく変わります。

法人契約の生命保険であれば、保険料を損金算入できる商品もあり、節税と相続対策を同時に進められる点も魅力です。

③ 種類株式・属人株で後継者に議決権を集中させる

「株が分散したとしても、議決権さえ後継者に集まっていれば会社は動かせる」という発想がここのポイントです。

種類株式(例:議決権のない株)や会社法上の属人的株式を活用することで、相続が発生しても後継者が経営権を維持できる仕組みを作れます。特に子どもに会社を継がせたいが、他の相続人との関係が読めないという社長には、この対策が効いてきます。

設計自体は会社の定款変更と株主総会の特別決議が必要になるため、早めに弁護士・税理士と連携して動いておく必要があります。

「いつかやろう」が一番危ない

相続対策には致命的な制約がひとつあります。それは、対策は必ず生前にしか打てないということです。社長が亡くなった翌日に「持株会社を作りたい」と言っても、もう何もできません。

自社株の評価額が3億円を超えているオーナーは、特に今すぐ動いてほしいと思います。持株会社の設立から効果が出るまでには一定の時間もかかります。「元気なうちに」ではなく、「今日から」の感覚で動いてください。

健康診断の結果が良くても、交通事故は防げません。事業が順調だからこそ、リスクの設計が重要になるんです。


まだ自社株の評価額を把握していないなら、まずはそこから始めてみてください。顧問税理士に「今の株価評価、試算してもらえますか?」と聞くだけでいい。その数字を見てから、次の一手を考えましょう。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。