先日、年商3億円の建設会社を経営する社長からこんな相談を受けました。「うちは役員報酬を低く抑えているんだけど、それって節税になってる?」と。
話を聞いてみると、毎月50万円、年間600万円に設定しているとのこと。「法人に残したほうが経費を使いやすいから」という理由でした。気持ちはわかります。でも試算してみると、これが実は一番損な設定でした。
役員報酬は、設定額によって手取りの合計が2,500万円以上変わることがあります。低ければ節税になるわけでも、高ければいいわけでもない。「最も税負担が少なくなるゾーン」がちゃんと存在するのです。
低すぎると法人税が重くのしかかる
役員報酬を年800万円以下に設定すると、確かに個人の所得税・住民税は小さくなります。ここまでは正しい。
ところが、法人に残った利益には法人税が約34%かかります。「個人の税金を節約しても、法人で34%取られる」——これが意外と見落とされがちな盲点です。
さらに問題なのは、法人に残ったお金は「会社のお金」であって「社長のお金」ではないという点です。生活費として使いたければ、結局また役員報酬か配当として引き出す必要があり、そのときにまた税金が発生します。「節税のために低く設定した」はずが、二重課税に近い状況を作り出しているケースも少なくありません。
高すぎると所得税の累進が容赦なく効く
逆に、役員報酬を年4,000万円以上に設定すると、今度は個人の税率が問題になってきます。
日本の所得税は累進課税です。課税所得が4,000万円を超えた部分には最高税率45%が適用されます。住民税10%を加えると、合計55%が税として消えていく計算です。
1,000万円稼いでも手元に残るのは450万円——これが現実です。法人に留保して法人税34%を払うほうが、個人で受け取って55%払うより明らかに有利という逆転現象が起きます。
「黄金ゾーン」は年収2,000万〜2,400万円前後
所得税・社会保険・法人税の3つを合算した税負担が最小になるポイント。それが年収2,000万〜2,400万円前後のゾーンです。
なぜこのあたりが最適になりやすいのか、整理するとこうなります。
- 所得税率が33〜40%の帯にあたり、4,000万円超の55%より低い
- 法人に残す利益が減ることで、法人税34%の負担も下がる
- 社会保険料の上限(標準報酬月額の上限)に達しているため、報酬を増やしても保険料が増えない
この3つが絶妙に釣り合うゾーンが、2,000〜2,400万円付近にあたるわけです。
ただし、「このゾーンに設定すれば誰でも最適」というほど単純な話ではありません。配偶者への役員報酬の有無、不動産所得などの副収入、退職金の積み立て方針、社宅の活用状況——これらすべてが最適ラインに影響します。「うちの場合はいくらか」は、必ず個別に試算してもらう必要があります。
試算なしに設定を続けるのは危険
実際、同じ「年収2,000万円」でも、扶養控除の有無や社宅利用の違いで手取りは数百万円単位で変わります。
「なんとなく前年と同じ」「顧問税理士から特に何も言われていない」という理由で設定している社長は意外と多いのですが、役員報酬の設定は立派な経営判断です。
注意が必要なのは、役員報酬は事業年度の開始から3ヶ月以内にしか変更できない(定期同額給与の原則)という制約です。タイミングを逃すと1年間その設定で縛られます。「よし、変えよう」と思ったときにはもう遅い——というケースが毎年発生しています。
「なんとなく」から「戦略的な意思決定」へ
冒頭の建設会社の社長は、試算後に役員報酬を年1,800万円に設定し直しました。翌期の手取りは前年比で約280万円増加しました。数字の見直しだけで、これだけの差が出ます。
2,500万円の差は、決して大げさな話ではありません。20年で換算すると、億単位の話になることもあります。まだ役員報酬の最適額を試算したことがない方は、今期の決算前に一度、顧問税理士に「複数シナリオでの試算」を依頼してみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。