先日、ある経営者からこんな相談を受けました。

「10億円の不動産を個人で持っているんですが、顧問税理士からは特に何も言われなくて…。売るときにどれくらい税金がかかるんですか?」

率直に言います。そのまま売ったら、想像以上の税金がかかります。そして、その税金を大幅に減らせる選択肢があるにもかかわらず、多くの顧問税理士はなかなか提案してこないのが現実です。

個人保有という落とし穴

不動産を個人名義で保有している場合、売却益には「分離課税」が適用されます。

保有期間が5年以下の短期譲渡なら、所得税と住民税を合わせた税率は約39%。5年超の長期保有でも約**20%**です。

たとえば売却益が5億円出たとすると、短期保有なら2億円近い税金が一気に飛んでいく計算になります。毎年コツコツと積み上げてきた利益が、売却の瞬間に大きく削られてしまうわけです。

「長期で持ち続けるから関係ない」と思った方もいるかもしれません。でも、事業承継・相続・資産整理のタイミングを考えると、いつかは必ず出口を迎えます。そのときの準備が今できているかどうか、これが問題なのです。

SPCを使うと何が変わるのか

SPC(Special Purpose Company=特別目的会社)とは、特定の不動産を保有・運用するためだけに設立する法人のことです。

このSPC経由で不動産を保有すると、売却益に適用される税率は**法人実効税率の約34%**となります。個人の短期譲渡39%と比べると5ポイントの差ですが、ここからさらに大きく圧縮できます。

SPCの最大の強みは、借入金利息の損金算入建物の減価償却費を最大限に活用できる点です。この2つを適切に設計に組み込むことで、実質的な税負担率を20%台前半まで引き下げることが可能になります。

個人の短期保有39%と比べると、実に15ポイント以上の差。これが10億円規模の不動産になれば、その差は億単位になってきます。

「3億円節税」の実例

私が以前担当していた、年商15億円の製造業の社長の話をご紹介します。

その社長は、合計10億円規模の不動産を個人名義で複数保有されていました。賃料収入は安定していたものの、相続対策と事業承継を本格的に考え始めたタイミングで、「今のままでいいのか」という疑問が浮かんできたのです。

そこで提案したのが、SPC経由への保有構造の組み替えでした。借入金の利息処理と建物の減価償却を適切に設計することで、将来の出口(売却または相続)で想定される税負担を、トータルで3億円規模圧縮できる試算が出ました。

SPC設立にかかる初期費用は、司法書士・弁護士報酬や登記費用、定款作成なども含めて500万円前後が相場です。3億円の節税効果と比べれば、コストは誤差の範囲と言っていいでしょう。大型物件であれば、十分すぎるほど元が取れます。

なぜ顧問税理士が提案しないのか

「それなら顧問税理士に相談すればいいじゃないか」と思うかもしれません。しかし、現実はそう簡単ではありません。

SPC設計には、会社法・不動産登記・金融・税務が複雑に絡み合う専門知識が必要です。設立後の会計処理も通常の法人より高度で、対応できる税理士事務所が極めて少ないのです。

顧問税理士が意図的に情報を隠しているわけではありません。ただ、専門外だから提案できないというケースがほとんどです。これは顧問税理士の責任ではなく、SPC設計がそれだけ高度な専門領域だということです。

だからこそ、大型不動産を保有している社長は、既存の顧問税理士との関係を大切にしながらも、SPC設計に強い専門家へのセカンドオピニオンを積極的に求めることが重要になります。

こんな社長は今すぐ試算を

SPC活用が特に効果的なのは、以下のような条件に当てはまる場合です。

  • 保有不動産の時価が3億円以上ある
  • 将来の売却・相続・事業承継を視野に入れている
  • 不動産収入が年間1,000万円以上ある

年商5億円以上で個人名義の不動産をお持ちなら、一度本格的なシミュレーションを試みる価値は十分にあります。

「顧問税理士に聞いたけど特に何も言われなかった」は、提案されなかっただけで最適な選択ができていない可能性があります。不動産節税の世界には、知らなかっただけで億単位の損失につながるケースが確かに存在します。心当たりのある社長は、SPC設計に精通した専門家への相談を今期中に一度検討してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。