先日、賃貸ビルを3棟保有する社長から、こんな相談を受けました。

「顧問税理士に相続の試算をしてもらったら、想像の3倍の金額が出てきて。なんでこんなことになるんですかね?」

創業から20年かけて、法人名義で不動産を直接取得してきた方でした。含み益は合計10億円を超えていましたが、問題は不動産の価値そのものではありませんでした。相続税の計算構造に、見落としがあったのです。

「法人名義で持てば安心」が通用しない理由

法人が不動産を直接保有している場合、相続の対象になるのは不動産そのものではなく法人の株式です。

ここが落とし穴です。

非上場会社の株式を評価するとき、「純資産価額方式」という計算方法が使われることがあります。これは、法人が持つ資産を時価で評価し、負債を差し引いた金額をもとに株価を算出する方法です。

この方式では、不動産は帳簿上の残存価値ではなく路線価ベースの金額で計上されます。さらに含み益に対しても、法人税相当額(37%)を控除した上で資産に加算するルールになっています。

長年保有して値上がりした不動産を法人名義で持っていると、その含み益が株式評価に丸ごと反映されてしまうのです。

試算してみましょう。不動産の時価合計20億円、借入10億円、含み益10億円という構成の場合、純資産価額は単純な差し引きの10億円ではなく、含み益の37%を控除した約16億円近くになることがあります。現金で持てば10億円と評価されるところが、法人名義の不動産保有では6億円も評価がかさ上げされる——これが「何億も損する」の正体です。

SPCとノンリコースローンを組み合わせると何が変わるか

この問題への対策として注目されているのが、SPC(特別目的会社)による不動産保有ノンリコースローンの組み合わせです。

発想のベースはシンプルで、「不動産を保有するためだけの会社を別途設立し、そこに不動産を移す」というものです。

「会社が増えるだけで同じでは?」と思う方もいるのですが、仕組みが根本的に違います。

ノンリコースローンとは、借入の担保と返済原資を特定の不動産に限定するローンのことです。通常の法人融資と異なり、「その不動産の収益と資産だけで返済が完結する」構造になっています。

これをSPCに組み込むと、SPCの純資産を計算する際に、不動産の時価からノンリコースローンの残高を差し引いた価値だけが株式評価に反映されます。借入残高が大きい状態では、SPC株式の評価額そのものが小さく計算される仕組みです。

この構造を活用したケースでは、直接保有と比べて不動産の課税評価額が60%以上圧縮されたという事例もあります。

さらに、SPC内での減価償却や費用計上を適切に設計すれば、法人税の負担も同時に抑えられる可能性があります。相続税と法人税を一つの構造でコントロールできるのが、直接保有にはない最大のメリットです。

「名ばかりSPC」は税務否認のリスクがある

ただし、ここで重要な注意点があります。

SPC保有は節税効果が大きい分、税務署も注目している領域です。書類上だけSPCを設立して不動産を移しても、実際の意思決定や管理運営がすべて親会社や個人によって行われているような場合、「経済的実態がない」として税務否認されるリスクがあります。

否認されると節税効果がゼロになるだけでなく、加算税・延滞税まで加わります。SPCには独立した会計・契約・銀行口座が必要ですし、不動産管理の実務もSPCが担っている実態を整えることが不可欠です。

「仕組みを作るだけ」では通用しない。これだけは、しっかり認識しておいてください。


不動産を法人名義で持っている社長は、「資産がある」という安心感があるかもしれません。でも相続の視点から見ると、保有構造次第でその資産が大きな税負担に変わることがあります。

現在、法人名義で不動産を直接保有しているなら、一度「相続時の株式評価額がいくらになるか」を試算してもらうことをおすすめします。早い段階で気づけるほど、打てる手の選択肢が広がります。今期の決算対策として、顧問税理士に相談してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。