先日、会社を経営して15年というクライアントの社長から、こんな相談を受けました。
「投資用のマンションを個人名義で3棟持ってるんですけど、毎年の確定申告のたびに税金がやたら高くて……」
話を聞くと、年間800万円ほどの家賃収入があるにもかかわらず、役員報酬との合算で実質50%近い税率が適用されていました。制度のしくみを知らないまま個人名義で持ち続けた結果、毎年数百万円単位の機会損失が生まれていたんです。
個人名義は税率が高くなりすぎる
日本の所得税は累進課税です。所得税と住民税を合計すると、最大55%の税率になります。社長のように役員報酬がすでに高い水準にある方が不動産収入を個人で受け取ると、その家賃収入がまるごと最高税率のゾーンに乗ってしまいます。
仮に1億円の物件で年間800万円の家賃収入、経費を差し引いて600万円の課税所得が残ったとしましょう。55%の税率なら税負担は330万円。一方、法人保有であれば実効税率は約34%で、税負担は約204万円。年間で約126万円の差が生まれます。
10年持ち続ければ、それだけで1,000万円を超える差になります。これはもう、「知っているかどうか」だけの問題です。
法人保有が強い理由は税率だけじゃない
法人で不動産を持つメリットは、税率の低さだけではありません。
まず、減価償却費を法人経費に計上できる点が大きいです。建物部分は耐用年数に応じて毎年償却でき、その分が法人の利益を圧縮します。個人でも減価償却自体はできますが、法人のほうが経費として使える範囲が広い。
次に、収益の受け取り方を柔軟に設計できます。不動産収益を役員報酬として受け取るか、内部留保にするか、次の投資に回すか——これを経営判断で最適化できます。個人所得として一括で受け取ってしまうと、税率のコントロールができません。
さらに、相続対策としても機能します。不動産を個人名義で持っていると、相続時に評価額がそのまま課税対象になります。法人の株式として保有すれば、評価の組み換えが可能になるケースがあります。
SPCとは何か、なぜ経営会社に入れないのか
「では既存の法人に不動産を持たせればいい」と思う方もいるかもしれません。ただ、経営会社と不動産を同じ器に入れると、収益管理が複雑になり、経営リスクが不動産資産に波及する可能性もあります。
そこで使われるのが**SPC(Special Purpose Company:特別目的会社)**です。不動産を保有・管理することだけを目的とした会社を別途設立し、そこで物件を持つしくみです。
設立費用は合同会社なら20〜30万円程度、株式会社なら30〜40万円程度。ランニングコストも毎年の税務申告費用が中心で、節税効果と比べれば初年度で十分に回収できる水準です。
SPCを使う主なメリットをまとめると:
- 税率の最適化:法人実効税率(約34%)で不動産収益を受け取れる
- 経費の最大活用:減価償却、修繕費、管理費を法人経費に計上
- 相続設計の自由度:法人株式として次世代への移転が設計しやすい
- リスク分離:経営会社と不動産資産を切り離して管理できる
動く前に知っておきたい注意点
ただし、SPCスキームを検討するうえで、いくつか押さえておきたいポイントがあります。
既存の個人名義物件をSPCに移転する場合、譲渡所得税が発生します。 個人から法人への売却扱いになるため、含み益が大きい物件ほど移転コストも膨らみます。タイミングや方法を慎重に設計しないと、節税どころか余分な税負担になりかねません。
融資条件も変わります。 個人名義なら個人の信用力で借りられますが、設立間もないSPCでの借入は審査が厳しくなる場合があります。金融機関との関係構築も含めて、事前に確認が必要です。
実体のない箱会社は認められません。 税務調査では、SPCが実際に不動産管理業務を行っているかが確認されます。管理の実態をきちんと示せる体制を整えることが前提です。
これから不動産を買う予定があるなら、今すぐ動く
既に個人名義で物件を持っている方は、移転コストとのバランスを慎重に見極める必要があります。一方、これから新たに不動産を取得する予定がある社長は、最初からSPCで購入することを強くおすすめします。
最初から法人保有にしておけば移転コストはゼロ。設立費用30〜40万円で、年間の節税効果が100万円を超えるなら、初年度で元が取れる計算です。
「不動産は個人で買うもの」という思い込みが、知らないうちに大きな損失を生み続けています。次の物件を検討しているなら、購入の前にSPCスキームを頭に入れてから動いてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。