先日、知人の経営者から届いたLINEにこんなメッセージがありました。
「今年、利益が思ったより出ちゃって。役員報酬、もう少し上げたかったんだけど…もう遅い?」
送信されてきたのは6月の第2週。私はしばらく返信を止めてしまいました。答えは「はい、遅いです」だったからです。
3ヶ月しかない、改定の窓口
役員報酬には「定期同額給与」という税務ルールがあります。毎月同額を支給することで、法人の経費として認められる仕組みです。これは節税の基本中の基本なのですが、多くのオーナー社長が見落としている落とし穴があります。
改定できる期間が、事業年度開始から3ヶ月以内に限られているのです。
3月決算の会社であれば、4月・5月・6月の3ヶ月が改定の窓口。つまり5月末が実質的なデッドラインです。6月1日を過ぎると、次の決算期まで報酬を変えることができません。
途中で金額を変えてしまうと、変更前後の差額が「定期同額給与」の要件を満たさなくなり、増額分が法人の経費として認められなくなります。税務上は「役員賞与」として扱われ、損金不算入——つまり法人税の計算から弾かれてしまうのです。
「少しズレただけ」が、年800万円の差になる
「それくらいなら少し損するだけじゃ?」と思う方もいるかもしれません。しかし実際には、見た目よりずっと大きな話です。
役員報酬の金額は、法人税・個人所得税・社会保険料という三つの変数が絡み合う最適化問題です。
たとえば、年商5億円の会社を経営するオーナー社長で考えてみます。役員報酬が低すぎると法人側に利益が残り、実効税率30〜35%の法人税がかかります。一方、報酬が高すぎると個人の所得税・住民税の税率が上がり、さらに社会保険料の負担も一気に膨らみます。
この「最適なバランス」を1年間ズレたまま放置すると、ケースによっては年間800万円以上の差になることがあるのです。税理士に試算してもらうと、「そんなに?」と驚く経営者は少なくありません。
特に注意が必要なのは、今期の利益が昨年より大きく伸びたケース。「今年はいつもより儲かったな」と感じているなら、それは同時に「報酬設定の見直しが必要なサイン」でもあります。好調な時期ほど、期限内に手を打てているかどうかで結果が大きく変わります。
「去年と同じ金額」が一番危ない
では、適切な役員報酬はいくらか?
残念ながら、一律の答えはありません。会社の利益規模、オーナー家族の収入構成、将来の設備投資の有無、退職金の積み立て計画——これらすべてが絡んでくるからです。
一般的な考え方として、次のような視点で検討します。まず、法人の利益を圧縮して適正な課税所得に持っていくための「最低ライン」。次に、個人の所得税が上のゾーンに突入しすぎないための「上限ライン」。そして、社会保険料の標準報酬月額が過度に上がらない「調整ライン」。
これを毎年の決算数字と照らし合わせながら、期の初めに設定するのが理想の流れです。
そして、「去年と同じ金額でいいか」という判断が最も危険です。会社の利益が変われば、最適な報酬額も変わります。昨年の数字を惰性で続けることは、知らず知らずのうちに毎年余分な税を払い続けることと同じです。
今週中に動くべき理由
4月・5月のうちに、必ず税理士と今期の予想利益を確認しながら、役員報酬の改定シミュレーションを行ってください。
「忙しくてその時間がない」という方ほど要注意です。期限が過ぎた後では、どんなに優秀な税理士でも後から報酬を変えることはできません。ルールが認めていないのですから、腕前は関係ないのです。
まだ今期の役員報酬を見直していないなら、今週中にでも顧問税理士にアポを入れることをおすすめします。5月末のデッドラインは、毎年思っているより早く来ます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。