先日、年商20億円の中堅メーカーを経営する社長から、こんな相談を受けました。「グループに赤字の子会社があって、毎年億単位で損失が出てるんですが、どうにもならないですかね」と。
親会社はしっかり黒字なのに、子会社の赤字は切り離されたまま——。もしその赤字を黒字の親会社で吸収できたとしたら? 答えは、グループ通算制度にあります。
赤字1.5億円が「5,000万の節税」に変わる仕組み
グループ通算制度とは、完全支配(100%)の子会社2社以上を持つグループ企業が、グループ全体を一つの納税単位として所得計算できる仕組みです。2022年度税制改正で、旧・連結納税制度に代わって導入されました。
核心はシンプルで、子会社の欠損金を親会社の所得と相殺できること。日本の法人実効税率は約34%ですから、赤字子会社の損失が1.5億円あれば、それだけで年間5,000万円超の節税につながる計算になります。
「そんな都合のいい話が…」と思うかもしれませんが、これは制度として設計されているれっきとした節税手法です。知っている社長と知らない社長で、毎年数千万円の差がついているのが現実です。
どんな会社が対象になるのか
要件は思ったよりシンプルです。まず、親会社が100%支配している子会社が2社以上あること。持分が99%の会社があっても対象外になるため、持分構成は正確に確認が必要です。
そして、グループ全体で通算申告を行う必要があります。一部だけ選んで参加する、ということはできません。グループ全体で制度に乗るか乗らないか——その判断が求められます。
「うちはホールディングスとか大企業の話じゃないの?」という声もよく聞きますが、中堅・中小の企業グループでも十分に活用できる制度です。
通算前後で実効税率が10ポイント変わることも
実際にグループ通算制度を導入した企業では、通算前後で実効税率に10ポイント近い差が出るケースもあります。たとえば、親会社の課税所得が3億円、赤字子会社の欠損が1.5億円あれば、通算後の課税所得は1.5億円になります。
納税額は単純計算でほぼ半分。毎年億単位の税金を払っている会社であれば、その効果は決して小さくありません。赤字子会社を「お荷物」と見るか「節税装置」と見るか——視点が変わると、グループの財務戦略も変わってきます。
落とし穴は「加入・離脱のタイミング」
ただし、この制度にはひとつ大きな注意点があります。グループへの加入・離脱のタイミングで、欠損金に「遮断措置」が働くことです。
簡単に言うと、通算グループに途中から加わった会社の欠損金は、一定の制限を受ける場合があります。「赤字子会社を新設して翌年すぐに通算グループに加えれば節税できる」といった使い方は、税務上の否認リスクもあります。
設計を誤ると、期待していた節税効果が得られないどころか、追徴課税になるケースもゼロではありません。仕組みはシンプルに見えても、実務上の判断は複雑です。必ず税理士と一緒に、グループ構成や将来の事業計画も含めた慎重な設計が必要です。
今期から動くかどうかが分かれ目
グループ通算制度は、事業年度の途中から適用することはできません。適用開始は事業年度の開始日に合わせる必要があり、事前に所轄税務署への承認申請も必要です(原則、適用したい事業年度開始前3ヶ月以上前が目安)。
「来期から使いたい」と思ったなら、今すぐ動き始めることが重要です。グループ構成の確認、子会社の損益見通し、税理士との打ち合わせ——これだけでも相応の時間がかかります。
グループ内に赤字子会社を抱えているなら、「損して終わり」と諦める前に、一度グループ通算制度の可能性を税理士に相談してみてください。その赤字が、グループ全体の節税装置に変わるかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。