先日、関東で製造業を営む社長から、こんな相談を受けました。
「このまま何もしなかったら、息子に会社を渡せないかもしれない」
年商12億、創業30年の会社です。業績は順調。でも自社株の評価額が約8億円にまで膨らんでおり、このままでは相続時に3億円近い税金がかかる計算になっていました。
動けないのは、何をすれば良いかわからないから。今日は、そんな社長にこそ知っておいてほしいスキームをご紹介します。
なぜ今、持株会社が静かに広まっているのか
ここ1〜2年で、年商5億〜30億規模のオーナー経営者の間に静かに広まっていることがあります。
それが「持株会社(ホールディングス)の設立」です。新会社を設立し、そこに事業会社の株式を移転することで、自社株の評価額を大幅に圧縮する——合法的な節税スキームとして、事業承継の場面で注目を集めています。
「持株会社なんて大企業がやるもの」と思っていたとしたら、それは少し古い認識です。規模が中小でも、このスキームは十分に機能します。
株価評価が「70%減」になる仕組み
まず前提として、非上場の自社株は相続・贈与の際に税法上のルールで評価額が計算されます。この評価額が高いほど、払う税金も高くなります。
ここで鍵になるのが、会社規模による評価方式の違いです。
自社株の評価には「類似業種比準価額方式」と「純資産価額方式」の2種類があります。前者は同業他社の株価と比較して評価するため一般的に低く出やすく、後者は純粋な資産価値で評価するため高くなりがちです。
中小企業の場合、会社規模が大きいほど有利な類似業種比準価額の比率が上がります。逆に言えば、新設した持株会社を「小会社」として設計すれば、評価方式の比率が変わり、株価評価が大幅に下がるのです。
具体的には、事業会社の株式を持株会社へ現物出資で移転します。この操作により、持株会社は「小規模な株式保有会社」として評価されるようになります。
結果として、持株会社の株式評価額が圧縮されます。最大で元の評価の70%が削減されるケースもあり、先ほどの社長の場合、8億円の評価が2〜3億円規模になる可能性がありました。相続税に換算すると、2億円以上の差になります。
設立〜移転の大まかな流れ
実際の手順は、大まかに4ステップです。
- 持株会社(○○ホールディングス株式会社)を新設する
- 事業会社の株式を現物出資として持株会社へ移転する
- 持株会社の規模を「小会社」に設計する
- 相続・贈与時には圧縮後の評価額で申告する
手続きは税理士と司法書士が連携して進めることが多く、設立から移転完了まで通常1〜3か月ほどかかります。将来の株価上昇を見越して早めに動く、決算期をまたがないよう設計する、など細かな判断が求められるため、「思い立ったら即相談」が鉄則です。
知らないと痛い「株式保有特定会社」の落とし穴
スキームを設計する上で、ひとつ絶対に押さえておきたい注意点があります。
持株会社の総資産に占める株式等の割合が一定以上になると、「株式保有特定会社」として認定されます。この認定を受けると、有利な類似業種比準価額が使えなくなり、評価は純資産価額方式のみに限定されてしまいます。
つまり、スキームの効果が大幅に薄れる——どころか、逆効果になることもあります。どの比率が基準になるか、どう回避するかは会社の資産構成や業種によって異なるため、設計段階で税理士と綿密に確認することが必須です。
「うちは大丈夫だろう」という思い込みが、後になって取り返しのつかない結果につながることがあります。事前のシミュレーションを怠らないでください。
動き始めるなら「今期中」が鍵
持株会社スキームは、自社株評価がまだ低いうちに設計するほど効果が大きくなります。会社が成長し、利益が積み上がり、株価が上がってからでは手遅れになりかねません。
「いつかやろう」ではなく、「今期中に動く」と決めることが大切です。まずは自社の株価評価額を試算してもらうことから始めてみてください。現状把握だけなら、税理士への相談1回で十分です。動き始めるのに早すぎることはありません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。