先日、あるメーカーの社長から深刻な顔でこんな話を聞きました。
「税理士に相続税の試算をしてもらったら、3億円と言われた。会社を誰かに売るか、自分が死ぬまで引き継がせられないと思っていた」
年商10億円、従業員50名の黒字企業。優秀な経営者が25年かけて育て上げた会社です。なのに、その優秀さが仇になっていた。
優良企業ほど相続税が高くなる逆説
中小企業の非上場株式を評価する方法には、いくつかの選択肢があります。なかでも内部留保が多い黒字企業に適用されやすいのが「純資産価額方式」です。
簡単に言えば、会社の純資産(資産-負債)をそのまま株価として評価する方法。これがくせ者で、25年間コツコツ利益を積み上げてきた会社なら、帳簿上の純資産も膨れ上がっています。
稼げば稼ぐほど株価が上がり、相続時の税負担も連動して増える。「節税のために内部留保を厚くしたのに、相続では高く評価される」という逆説が生まれるわけです。
この社長の場合も、25年分の積み上げが株価を押し上げ、相続税評価額が3億円に達していました。
持株会社スキームという選択肢
この問題を根本から変える手段のひとつが、持株会社スキームです。
仕組みはこうです。まず新しい持株会社(ホールディングス)を設立し、事業会社の株式をそこに集約します。社長は事業会社の株主ではなく、持株会社の株主になる。一見すると遠回りに見えますが、これが節税の核心です。
ポイントは株価の評価方式が変わることにあります。事業会社の株式を直接保有していると、純資産価額方式で評価されやすい。ところが持株会社を通じると、「類似業種比準価額方式」が適用されやすくなります。
類似業種比準価額方式とは、上場している同業他社の株価を基準に評価する方法。上場企業は一般的にPER・PBRが低めに設定されているため、内部留保を積み上げた優良な非上場企業と比べると評価額が低く出やすい。この差が、節税の源泉になります。
実際に3億円がどう変わったか
この社長のケースでは、持株会社スキームを導入した結果、相続税評価額が約60%圧縮されました。
3億円だった試算が、1億2,000万円規模まで下がったことになります。持株会社の設立コスト(登記費用・税務申告・維持費)や株式移転にかかる税務処理を差し引いても、実質的な節税効果は数千万円規模です。
生命保険の活用や退職金との組み合わせでさらに最適化できますが、まず評価方式そのものを変えることが大きな一手になります。
「相続が起きてから」では手遅れ
ひとつ、重要な注意点があります。
持株会社スキームには、最低でも18ヶ月の準備期間が必要です。株式移転の手続き、税務申告、新会社の運営実態を整えるだけでも相当な時間がかかる。
さらに、節税効果を正当に享受するには、形式だけでなく「経済的な実態」が伴っている必要があります。相続が発生してから慌てて持株会社を作っても、税務署に実態のない形式的な節税と判断されるリスクが高い。
「相続が起きてから動けばいい」という発想は、この分野では通用しません。
事業承継は「まだ早い」と感じた時期が、実はちょうど良いタイミングです。
今動くべきか判断するための目安
自社が持株会社スキームの候補になるかどうか、おおよそ以下の点で確認できます。
- 自社株の相続税評価額を試算したことがない
- 純資産が毎期増えている(内部留保が厚い)
- 後継者への株式移転がまだ曖昧
- 社長の年齢が50代以上
ひとつでも当てはまるなら、まず自社株の評価額を数字として把握することから始めてください。知らないまま先送りし続けることが、いちばんのリスクです。
会社を守るために積み上げてきた内部留保が、相続時の爆弾になっていないか。一度、税理士と一緒に試算してみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。