先日、年商12億円の製造業を営む社長から、こんな話を聞きました。
「先月、同業の友人が急に亡くなってね。奥さんが相続税の支払いで会社の株を手放さなければならなくなったって聞いて、他人事じゃないと思って…」
その社長、自社株の相続税評価額を初めてきちんと計算してみたそうです。出てきた数字を見て、しばらく言葉が出なかったとおっしゃっていました。
自社株が「相続の爆弾」になる理由
非上場会社の株式は、相続税の計算に「純資産価額方式」や「類似業種比準価額方式」という方法を使います。
会社が利益を積み上げれば積み上げるほど、純資産は増え、株価も上がっていきます。それ自体は喜ばしいことなのですが、相続税の観点からは話が変わってきます。
たとえば純資産10億円の会社であれば、株式の評価額も10億円近くなることがあります。自社株の相続税評価額が高くなるほど、遺族が納めなければならない相続税も増えていくわけです。
年商10億円を超えるような会社では、自社株だけで相続税評価額が数億円〜十数億円に達することも珍しくありません。社長がコツコツ積み上げてきた会社の価値が、そのまま「相続税の請求書」になってしまうのです。
持株会社を挟むと何が変わるのか
ここで登場するのが「持株会社」という仕組みです。
事業会社(実際に事業を行っている会社)の上に、株式だけを保有する親会社(=持株会社)を設立します。そして、社長個人が保有していた事業会社の株式を、この持株会社に移してしまうのです。
この二層構造にすると何が変わるかというと、評価方法の選択肢が広がります。
事業会社は利益をしっかり出しているわけですから、「類似業種比準価額方式」を使えるケースが増えます。この方式では、上場している同業他社の株価水準と比較して評価額が決まるため、純資産ベースで計算するよりも低く出ることが多い。
実際に、持株会社を活用することで評価額を30〜50%圧縮できた事例があります。5億円規模の資産であれば、相続税の差が億単位になることも。これは決して無視できる数字ではありません。
見落としてはいけない「株式保有特定会社」の落とし穴
ただし、持株会社を設立さえすれば万事解決、というわけではありません。ひとつ大きな落とし穴があります。
それが「株式保有特定会社」という税務上の判定です。
持株会社の総資産のうち、50%以上を株式(子会社株式)が占めてしまうと、「株式保有特定会社」に該当してしまいます。こうなると類似業種比準価額が原則として使えなくなり、評価圧縮の効果がほぼ消えてしまいます。
この判定を回避するためには、持株会社が不動産や事業用資産なども保有する形にして、株式の比率を50%未満に抑える設計が必要です。持株会社という「箱」を作るだけでなく、資産の配置まで含めて緻密に設計することが重要になります。
タイミングがすべてを左右する
持株会社を使った相続税対策で、もうひとつ外せないのがタイミングです。
事業会社の株価が低い時期に株式を移転するのが鉄則です。株価が高くなってから動くと、移転そのものに贈与税や所得税の負担がかかってしまいます。
特に気をつけたいのがM&Aの前後です。M&Aが実施されると株式の評価が大きく跳ね上がることがあります。「M&Aが決まってから慌てて持株会社を設計した」というケースでは、タイミングを逃して手遅れになっていることも少なくありません。
また、決算期を越えるたびに利益剰余金が積み上がり、株価は上がっていきます。「いつかやろう」と思っているうちに、動けるタイミングを失ってしまうのが一番もったいないことです。
今期中に、まず試算してみてください
持株会社スキームは、設計を間違えると効果がゼロになるどころか、余計なコストが発生することもあります。税理士によって事業承継・相続対策の知識の深さに差があるテーマでもあるので、事業承継を専門とする税理士に相談することをおすすめします。
まずは「自社株の相続税評価額がいくらになるか」を専門家と一緒に試算してみてください。数字を把握してから対策を考える、という順番で動くのが一番です。
年商が大きくなればなるほど、対策を打てるタイミングは限られていきます。株価が低い今期こそ、動き出すのに最適な時期かもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。