先日、年商12億円の製造業の社長からこんな相談を受けました。「税理士から自社株の評価が15億円になっていると言われた。そのまま相続したら、一体いくら税金がかかるんだろう……」と、顔を曇らせながら話してくれました。
その社長が青ざめるのも無理はありません。評価額15億円の自社株をそのまま相続すると、その金額がまるまる課税対象になります。相続税の最高税率は55%。対策なしで臨んだ場合、数億円単位の税負担が一気にのしかかってくるのです。
会社が成長すればするほど株の評価が上がり、将来の相続税が膨らんでいく。このジレンマを抱えている社長は、実は少なくありません。でも実は、持株会社という仕組みを使えば、その評価額を大幅に圧縮できます。具体的には約40%。15億円の評価が9億円台まで下がることもあるのです。
持株会社を挟むと「評価の計算式」が変わる
自社株の評価方法の一つに「純資産価額方式」というものがあります。会社の資産から負債を差し引いた純資産をベースに、評価額を計算する方法です。
ここに、重要なルールが組み込まれています。土地や有価証券など、値上がりした資産の含み益に対して、法人税相当額として37%を控除できるというルールです。つまり、含み益の全額ではなく、63%分しか評価額に算入されないのです。
持株会社(法人)が自社株を保有する形にすることで、この37%控除が最大限に機能する構造をつくれます。個人で直接株を持っているケースと比べて、評価の計算プロセスが変わり、結果として評価額が大きく圧縮されるというわけです。
数字で見ると、差は歴然です
少し具体的な数字で整理してみましょう。
評価額15億円の自社株を個人でそのまま相続した場合、15億円が課税対象になります。一方、持株会社を設立してそこに自社株を保有させた場合、持株会社の株式を評価する際に法人税相当額37%控除が機能します。結果として、課税対象の評価額が9億円台まで下がるケースが出てきます。
差額は約6億円。この差額に相続税がかかるかどうかで、次世代への引き継ぎコストは数億円単位で変わってきます。「数億円の差」というのは誇張でも脅しでもなく、実際に起こりうる現実の数字です。
なぜこの話を誰も教えてくれないのか
「そんなに効果的な方法があるなら、なぜ税務署や顧問税理士が教えてくれないのか」。よくそう聞かれます。
答えはシンプルで、組織再編の専門知識が必要で、簡単には説明できないからです。持株会社の設立・運用には、組織再編税制の深い理解が求められます。ただ会社を作ればいいわけではなく、設立のタイミング、株式の移転方法、その後の経営体制まで、複数の要素を精緻に組み合わせる必要があります。
手順を間違えると、節税どころかかえって課税リスクが生まれることもあります。税務署は納税者に有利な情報を積極的に提供する立場にありません。だからこそこの分野は、知っている人だけが得をする構造になっているのです。
早く動くほど、効果が大きくなる
このスキームには、絶対に外せない条件があります。早期に設計することです。
持株会社への株式移転にはコストがかかります。贈与や譲渡という形で移転する場合、その時点の評価額が移転コストの基準になります。つまり、評価が低いうちに動けば動くほど、移転コストが小さくて済むのです。
「まだ事業承継は先の話」と後回しにしているうちに、業績が伸びて評価はどんどん上がっていきます。年商が5億から10億へと成長しているいまこそ、設計を始めるベストタイミングです。動けるうちに動く。これが節税の鉄則です。
まずは「自社株評価の試算」を依頼してみてください
持株会社の活用は、設計を間違えると税務上のリスクになります。税務当局も注目している分野ですので、一人で調べて動くのではなく、事業承継に強い税理士と一緒に設計することが前提です。
まだ自社株の評価額を把握していない方は、まず「評価の試算」を専門家に依頼するところから始めてみてください。数字を見てから戦略を立てても、決して遅くはありません。持株会社が有効かどうかの判断は、その数字を見てから――それが正しい順序です。まだ動いていないなら、今期中に一度、専門家に相談してみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。