先日、年商12億円の建設会社を経営している社長から、こんな連絡をもらいました。

「相続対策を顧問税理士に相談したら、『対策はしています』と言われたんですが、どうも腑に落ちなくて」と。

実際に試算してみると、その会社の自社株の評価額は約4億円。相続が発生した場合、株式だけで1億6,000万円以上の相続税がかかる計算でした。それなのに顧問税理士が提案していたのは、「生命保険を少し活用しましょう」という内容だけだったそうです。

自社株の評価額は、実は「動かせる」

多くの社長が誤解しているのですが、自社株の評価額は固定ではありません。

中小企業の株価は、相続税法上の「財産評価基本通達」に基づいて計算されます。会社の規模によって評価方法が異なりますが、中堅規模(年商10億前後)の会社では「純資産価額方式」で評価されることが多く、これが高い評価につながりやすい構造になっています。

純資産価額方式とは、簡単に言えば「会社の正味財産をそのまま評価する」方法です。利益が積み上がって内部留保が厚い会社ほど株価が高くなる。つまり、経営が順調であればあるほど相続税負担が重くなるという、少々理不尽な仕組みが存在するわけです。

不動産投資と持株会社の組み合わせで30〜40%圧縮できる

では、どうするか。合法的な評価引き下げとして、現場でよく使われるのが2つの手法の組み合わせです。

ひとつは不動産投資です。収益不動産を会社に保有させると、相続税評価額と時価の差(いわゆる「評価差額」)を活用して、純資産価額を圧縮できます。不動産の相続税評価額は時価の6〜7割程度になることが多く、この差を意図的に作ることで株価を引き下げる効果が生まれます。

もうひとつは持株会社スキームです。事業会社の株式を持株会社(ホールディングス)に移し、評価方法を「類似業種比準方式」が使えるように組み替える手法です。類似業種比準方式は同業種の上場企業の株価を基準にするため、純資産価額方式より低い評価になることが多いのです。

この2つを組み合わせると、評価額を30〜40%引き下げられるケースがあります。年商10億超の会社で株価が約8億円あったとすれば、3億円前後の圧縮も現実的な数字です。そして3億円の評価が下がれば、相続税の差額は最大で約1.2億円にのぼります。数字で見ると、その効果の大きさが伝わるかと思います。

なぜ顧問税理士は教えてくれないのか

「それなら顧問税理士に頼めばいい」と思うかもしれません。ただ、ここには業界特有の事情があります。

顧問税理士の仕事のメインは、日々の記帳・決算・税務申告です。事業承継や相続の高度な設計は、それとは別の専門領域。すべての税理士がこの分野に精通しているわけではなく、「わからないから教えない」というより「専門外だから深く踏み込めない」というのが実態に近いと思います。

評価引き下げスキームの設計には、不動産・組織再編・税務という3つの視点が同時に必要です。通常の顧問業務の延長では対応しきれないケースも多く、「問題ありません」という返答が、必ずしも「対策済み」を意味しないことは知っておいていただきたい点です。

「相続が起きてから」では間に合わない

これだけはお伝えしておきたいのですが、相続税の対策は「相続が発生する前」に打つものです。

亡くなった後では、財産の組み替えも持株会社への移行もできません。特に株価の評価引き下げは、スキームを組んでから実際に評価が下がるまでに1〜2年かかることもある。「まだ先の話だから」と後回しにしているうちに、対策の窓が閉じてしまうのです。

年商10億を超えている会社オーナーなら、まず自社株の現在の評価額を把握することから始めてください。顧問税理士に「問題ありません」と言われたとしても、事業承継を専門とする税理士にセカンドオピニオンを求める価値は十分あります。気づいたときに動けるかどうかで、億単位の差が生まれることは決して珍しくありません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。