先日、年商12億円の製造業を営む社長から、こんな相談が届きました。
「うちの会社、業績はいいんですが、いざ相続となったときに子どもたちが払える税金なのか不安で……」
この社長、決して珍しいケースではありません。会社が順調に成長するほど、自社株の評価額はどんどん膨らんでいく。そして気づいたときには「会社を売らないと相続税が払えない」という事態になりかねない。事業承継のリスクとして、見落とされがちな話です。
自社株を直接持ち続けることのリスク
年商10億を超えるくらいの優良企業になると、自社株の純資産価額は億単位になることが多いです。
仮に会社の純資産が10億円あり、オーナー社長が100%保有していれば、その株式の相続税評価額もおよそ10億円。相続税は累進課税で、大型資産には最高税率55%が適用されます。単純計算で5億円超の相続税がかかる計算です。
「そんな現金、どこにあるんだ」という話ですよね。会社の中にあるのはあくまで「事業資産」であって、すぐに現金化できるわけではない。相続税のために会社を売却、あるいは無理な借り入れを余儀なくされる。これが事業承継の最大の落とし穴です。
持株会社を一枚挟むと何が変わるのか
ここで登場するのが「持株会社スキーム」です。
仕組みはシンプルです。まず、オーナーが直接保有している事業会社の株式を、新しく設立した持株会社(ホールディングス)に移転する。すると、オーナーが直接保有するのは「事業会社の株」ではなく、「持株会社の株」になります。
この一手で、株の評価額が大きく変わります。
株式の評価方法に「純資産価額方式」というものがあります。会社の純資産をベースに株価を計算する方法です。持株会社の株を評価する場合、保有している子会社株の価値から「法人税相当額37%」を控除できるんです。
つまり、10億円の純資産を持つ事業会社の株を直接保有していれば評価額は10億円。でも持株会社を経由すると、法人税相当額の控除が入り、評価額がぐっと下がる。設計や会社の状況によっては、その圧縮額が5億円を超えるケースも現実にあります。
評価圧縮の仕組みを具体的なイメージで
少し乱暴な例ですが、整理してみましょう。
事業会社の純資産が10億円あるとします。直接保有なら相続税評価額は10億円で、最高税率55%なら税額は概算で5億円超。持株会社を経由した場合、法人税相当額37%が控除されるので評価額は概算で6.3億円になります。同じ税率でも、課税ベースが約4億円下がる。これが「評価圧縮」の正体です。
もちろん実際の計算はもっと複雑で、他の保有資産の種類や比率、評価時点の純資産額など、さまざまな要素が絡んできます。それでも「一枚挟むだけでこれだけ変わりうる」という感覚は、経営者として持っておいて損はないと思います。
設計を間違えると逆効果になることも
ただし、ここで必ず知っておくべき注意点があります。
持株会社が株式や投資有価証券を「総資産の50%超」保有している状態になると、「株式保有特定会社」に該当します。この場合、評価額を下げる効果が期待できる類似業種比準方式が使えなくなり、純資産価額方式のみの適用になる。
設計を誤ると、評価圧縮の効果が薄れるどころか、かえって評価額が高止まりするケースも出てきます。持株会社の資産構成をどう設計するか、どのタイミングで株式を移転するか。このあたりは、自社の決算内容や将来の事業計画を踏まえた上で、しっかりプランニングする必要があります。
「とりあえず持株会社を作ればいい」という話ではないんです。
今の会社の状態を確認するところから始めよう
年商が10億を超えてきたあたりで、一度「自社株の評価額がいくらになっているか」を試算してみることをおすすめします。
意外と多いのが、「うちはまだ早い」と思っていたら、気づいたときには純資産が膨らみすぎて手が打ちにくくなっていたというケースです。相続税対策は「早すぎる」ということはなく、選択肢が多い早い段階から動いた方が、確実に有利な設計ができます。
まずは顧問税理士に「持株会社の活用を検討してみたい」と声をかけることが、最初の一歩です。その一言が、結果として数億円の差を生むことがあります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。