先日、3月決算の会社を経営する社長から、こんな連絡が来ました。

「今期はかなり利益が出そうなので、そろそろ役員報酬を上げたいんですが、7月でも手続きできますか?」

残念ながら、できません。7月1日の時点でもう、1年間は手遅れです。

なぜ「6月末」が絶対期限になるのか

役員報酬の改定には「定時改定」と呼ばれるルールがあります。法人税法上、役員報酬を事業年度の途中で増減させると「恣意的な利益操作」と見なされ、変更後の金額が損金として認められなくなるリスクがあります。

これを防ぐために設けられたのが定時改定の仕組みです。事業年度開始後3か月以内であれば、株主総会や取締役会の決議を経て役員報酬を改定でき、その全額が損金扱いになります。

3月決算の会社であれば、事業年度は4月スタート。3か月後の6月30日が、今期の役員報酬を見直せる最後の期限です。7月以降に「やっぱり上げたい」と決議しても、増額分は損金として認められません。

1年間「何もできない」という重さ

「改定できなかったら来期にやればいい」——そう思う方もいるかもしれません。でも、問題はそう単純ではありません。

役員報酬の設計は、法人税・所得税・社会保険料の3つに同時に影響します。どれか1つを動かせば他の2つが連動する。このバランスを毎年の定時改定で調整するのが、節税の基本設計です。

それが1年間まるごとできなくなるわけですから、見落としたコストは想像以上に大きい。年収2,000万円前後の役員報酬を最適化した場合、3つの税負担の合計で年間300〜400万円の差が生まれることもあります。これを10年積み上げると、3,000〜4,000万円の話になります。「年間3,600万円規模の機会損失」というのは、決して誇張ではないのです。

「三角形」を設計するという発想

節税が得意な経営者は、役員報酬を「いくら稼ぐか」ではなく「法人と個人の税負担の合計を最小化する」という観点で考えています。

法人の利益を圧縮したい → 役員報酬を高くする → でも個人の所得税と社会保険料が増える。逆に役員報酬を下げれば個人の負担は軽くなるが → 法人に利益が残って法人税がかかる。

この3つの税負担は「三角形」のように連動しています。一点を動かせば、別の頂点が上がる。目的は、三角形の面積(合計税負担)を毎年できるだけ小さくすることです。その設計を年に1回だけ見直せる機会が、定時改定の3か月間です。

今期の利益見込みが出たら、すぐ動く

役員報酬の最適な水準は、その期の利益見込みによって変わります。

売上が大きく伸びた年は、法人側に利益を積み上げすぎないよう報酬を増やす方向で検討する。逆に設備投資や採用で利益が圧縮される年は、法人留保を厚くするために報酬を抑えるのが合理的です。

ポイントは「今期の着地利益の見込みが固まったタイミングで試算を依頼すること」です。6月末が期限とはいえ、試算には時間がかかります。顧問税理士が抱えているクライアントの数を考えると、ゴールデンウィーク明けには「今期の役員報酬、一度見直したい」と連絡を入れておくのが現実的です。

こんな方は特に早めの確認を

以下に当てはまる場合、今すぐ顧問税理士に連絡することをおすすめします。

  • 今期の売上や利益が前期から10〜20%以上変動している
  • 役員報酬を3年以上見直していない
  • 社会保険料の負担が重くなってきた感覚がある
  • 役員が増えた、または役員間での報酬バランスを変えたい

どれか1つでも当てはまるなら、今が動き時です。


まだ6月末まで少し時間はありますが、「後でやろう」と思っているうちに期限は来ます。毎年5月の第2週に「役員報酬の試算依頼」とカレンダーに入れておくだけで、こういった機会損失を防げます。

1つの習慣が、10年で3,000万円以上の差を生む——そう思えば、ちょっとした手間も惜しくはないはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。