「先生、今から役員報酬を変えることってできますか?」
毎年6月になると、こういう相談が税理士のもとに舞い込みます。答えは「もう間に合いません」。その瞬間、社長の顔が曇る——これが毎年繰り返される光景です。
役員報酬には、一度決めたら1年間は変更できないというルールがあります。変更できる窓は年に一度、それも事実上5月末までです。まだ間に合ううちに、確認しておくべき数字を整理しておきましょう。
なぜ「5月末」が期限なのか
法人税法には「定期同額給与」という概念があります。役員報酬は毎月同じ金額を支払い続けることで初めて損金(経費)として認められます。つまり、年の途中で金額を変えてしまうと、変更分が損金にならなくなる可能性があります。
3月決算の会社であれば、定時株主総会の法律上の期限は6月末です。ただし実務では、総会の準備・議事録の作成・税理士との事前シミュレーションを考えると、5月末が実質的なタイムリミットになります。
「6月になってからでも変えられるんじゃ?」と思うかもしれませんが、それが認められる「事業年度開始から3ヶ月以内」という期限を超えると、原則として1年間は変更不可の状態が確定します。
確認すべき数字①:今期の予想利益は800万円を超えるか
役員報酬を見直す最大の動機のひとつが、法人税と個人所得税の「税率差」を使った節税です。
法人の課税所得が800万円を超えると、法人税の実効税率はざっくり34%前後に跳ね上がります。一方、役員報酬として個人に移せば、所得控除や家族への分散なども組み合わせながら、全体の税負担を下げられる余地が生まれます。
今期の利益が800万円を超えそうな会社は、役員報酬を増やして法人に残る所得を圧縮する戦略が有効です。逆に、赤字が見えている局面でむやみに報酬を上げると、社会保険料だけが増えて逆効果になることもあります。
「今期いくら残りそうか」——この数字を今すぐ税理士に聞いてみてください。
確認すべき数字②:月額報酬は65万円を超えているか
社会保険料の仕組みで、多くの社長が見落としているポイントがあります。
厚生年金の標準報酬月額には、月65万円という上限が設定されています。報酬が月65万円を超えても、社会保険料はそれ以上増えません。つまり、65万円を超えているゾーンでは、社会保険料の増加なしに報酬を上げられる余地があります。
一方、現在の報酬が65万円未満の方は、そこまで増やすことで将来の厚生年金受給額を上げながら節税効果も得られます。報酬が低すぎても最適ではない、というのが社会保険と税のバランスの難しいところです。
自分の報酬が今どのゾーンにいるか、一度確認してみてください。それだけで、見えてくる選択肢が変わります。
確認すべき数字③:5月末まで残り何日あるか
これが一番シンプルですが、最も後回しにされがちな数字です。
税理士との相談、シミュレーションの作成、社内決議、株主総会の準備と議事録——これらを丁寧に進めると、最低でも2週間は必要です。5月の後半に「そういえば変えたい」と思っても、物理的に間に合わないケースが出てきます。
「来月でいいか」と先送りにしたその1ヶ月が、向こう1年分の税負担の差に直結します。今日この記事を読んでいるなら、今日中に税理士にメッセージを送るくらいの気持ちで動いてください。
「例年通り」が一番危ない
毎年同じ報酬額を続けている社長によく聞くのが、「特に変える理由がないから」という言葉です。
でも会社の利益は毎年変わります。売上も変わる、経費構造も変わる、代表者の生活費も変わる。「例年通り」という判断は、実は「何も検討していない」ことと同じになっていることがあります。
5月末は、1年に一度だけ訪れる役員報酬の再設計の窓です。今期の利益見込みを手元に置いた状態で、税理士と一緒に最適額を試算してみてください。それだけで、年間数十万〜数百万円の差が生まれることも珍しくありません。
期限が過ぎてから後悔しないよう、今週中に動いておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。