先日、顧問先の製造業オーナーとの決算打ち合わせで、こんな話が出ました。「社長仲間が10年で3億円節税したらしいんだけど、何をしたの?」

その社長が実践していたのは、持株会社を2社作って役員報酬を分散するという手法です。難しく聞こえるかもしれませんが、仕組みを知ると「なぜ今まで知らなかったんだろう」と思うはずです。

個人で受け取ると、稼ぎの半分以上が消える

年商15億円の製造業オーナーが、会社から役員報酬として年1億円を受け取ったとします。所得税と住民税を合わせると最大55%の税率がかかり、約5,500万円が税金として消えます。手元に残るのは4,500万円です。

稼いだお金の半分以上が毎年税金になる——これを何十年も続けていたら、資産形成のスピードがどれだけ鈍るか、想像してみてください。

この「個人にお金が集中する構造」こそが、高所得オーナー社長の最大の税務リスクです。

2社の持株会社で作った「分散の設計図」

この社長が選んだ解決策は、持株会社を2社設立することでした。

まず本体の製造会社の株を、持株会社A(オーナー所有)と持株会社B(配偶者・子の共同所有)に移します。そして各持株会社から、配偶者や子どもへ役員報酬を支払う設計にします。

ここで活きてくるのが、法人税の軽減税率です。法人の所得が800万円以下であれば、法人税は実効税率で約22%程度になります。2社でこれをフル活用すると、800万円×2社=1,600万円分の利益を低い税率で処理できます。

個人で受け取れば55%かかる部分を、法人経由で22%台に圧縮する。この差が10年積み上がって、3億円を超える数字になっていったのです。

なぜ「1社」ではなく「2社」なのか

1社でも持株会社を作れば節税効果はあります。ただ、この社長が2社にこだわった理由には、もう一つの目的がありました。

事業承継の準備です。

持株会社Bに配偶者と子どもを早期から参加させることで、将来の株式移転コストを抑えながら、徐々に経営権を移行する道筋を作っていたのです。節税と事業承継対策を同時に進める、一石二鳥の設計でした。

また2社に分けることで各法人の所得を800万円以下に収めやすくなり、軽減税率をより効率的に活用できる点も大きな理由です。

税務調査で否認されないための「業務実態」

ここで重要な注意点を一つ。

役員報酬の家族分散は、税務調査でよく指摘されるテーマです。「名前だけ役員にして報酬を払っている」実態がなければ、否認されるリスクが高くなります。

具体的には、役員就任の議事録、実際の業務内容の記録、取締役会への出席実態、意思決定への関与——これらが必要です。

この社長の場合、配偶者が持株会社の経理・財務を実際に担当し、長男が営業管理の責任者として実務に就いていました。「形式を整えるだけでなく、実態を作る」ことを徹底した結果が、10年間一度も否認されなかった理由です。形式と実態の両輪を揃えることが、このスキームの絶対条件です。

今すぐ確認すべきこと

複雑なスキームに見えますが、最初の一歩は「自分の役員報酬にかかっている税率を計算すること」だけです。55%近い税率がかかっているなら、持株会社活用の余地は十分あります。

決算のたびに「もっと早くやっておけばよかった」と後悔する前に、一度顧問税理士に「持株会社で役員報酬を分散できないか」と相談してみてください。スキームの設計は専門家との連携が必須ですが、検討を始めること自体は今日からできます。10年後の資産残高が、大きく変わってくるはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。