先日、ある社長からこんな相談を受けました。「来年、会社を後継者に譲ろうと思っているんですが、退職金っていくらもらえるんですか?」と。

話を聞いてみると、月額役員報酬は50万円。勤続年数は25年。退職金の計算式に当てはめると……想定退職金は3,750万円になります。

ところが、別の会社の社長の話も聞きました。こちらは月額報酬150万円、勤続20年。計算すると退職金は9,000万円。差額は5,250万円。しかも、退職金は給与と比べて圧倒的に税負担が軽いので、手取りの差はさらに広がります。


退職金は「3つの掛け算」で決まる

役員退職金の計算式は、実はシンプルです。

最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率

これだけです。でも、この掛け算が曲者で、「最終月額報酬」の差が積み重なると、とんでもない開きを生みます。

月額報酬が100万円違うと、勤続20年・功績倍率3倍の場合、退職金の差だけで6,000万円になります。月100万円の違いが、退職時に6,000万円の差として現れるわけです。

これが「役員報酬は経費削減のために低く抑えればいい」という発想の落とし穴です。


退職所得は、給与の「半分課税」が強烈に効く

退職金の本当のすごさは、税金の計算方法にあります。

給与や賞与は全額が課税対象ですが、退職所得は違います。退職所得控除(勤続年数×70万円、20年超は1年あたり70万円が加算)を引いた残りを、さらに2分の1にしてから税率をかけます。

たとえば退職金8,000万円、勤続30年の場合。退職所得控除は1,500万円(800万+70万×10年)。控除後の6,500万円を1/2にして3,250万円が課税所得です。

同じ8,000万円を役員報酬として毎年受け取っていたら、累積の税負担とは比べものにならないくらい、退職金の手取りは多くなります。「出口で一括で受け取る」という設計が、長期的に見て圧倒的に合理的なのです。


功績倍率「3倍」の根拠と税務リスク

功績倍率には法律上の上限はありません。ただし、税務調査で否認されにくい目安として、業種や規模にもよりますが2〜3倍が実務上の相場とされています。

3倍を超えると「過大役員退職金」として法人税法上の損金不算入とされるリスクが高まります。過去の判例でも、類似法人との比較や会社への貢献度が問われた事例が多くあります。

「高ければ高いほどいい」ではなく、根拠を示せる水準に設定することが重要です。設定の際は、同規模・同業種の役員退職金の事例を参照しながら、税理士と一緒に算定根拠を書面で残しておくことを強くお勧めします。


「出口設計」は5〜10年前から始める

ここが多くの社長が見落としているポイントです。

退職金の計算式のうち、「勤続年数」は変えられません。「功績倍率」も大幅な操作は難しい。つまり、唯一コントロールできるのが「最終月額報酬」です。

しかし、退職直前だけ報酬を急に上げると、税務調査で「退職金を水増しする目的の操作」と見なされるリスクがあります。数年かけて報酬を段階的に引き上げ、それが実態として会社の経営に見合った水準であることを示す必要があります。

だからこそ、「引退は10年後かな」と思っている今から設計を始めることに意味があるのです。5年後、10年後の出口をイメージして、今の報酬水準を見直す。それだけで、手元に残る資産が1億円以上変わることはざらにあります。


まず「自分の退職金シミュレーション」を出してみてください

今の月額報酬と勤続年数がわかれば、計算自体は5分もあればできます。顧問税理士に「退職金のシミュレーションをしてほしい」と一言伝えるだけでいい。

もし「まだ先のこと」と後回しにしているなら、それが一番もったいない選択かもしれません。設計に使える時間は、引退が近づくほど少なくなります。今期中に一度、報酬と退職金の設計を棚卸しすることをお勧めします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。