先日、精密部品メーカーを経営する62歳の社長から、こんな相談を受けました。
「息子に会社を引き継がせたいんですが、最近業績が上向いてきて……。株価が上がると、税金がとんでもないことになりますよね?」
そうなんです。「とんでもないこと」という表現、まったく大げさではありません。対策なしに承継を進めると、税負担だけで数億円という話は珍しくないのです。
株価6億円の会社を「そのまま」渡すと何が起きるか
非上場の中小企業の株式には、証券市場のような取引相場がありません。だから評価方法が複雑で、業績が好調な会社ほど株価が高く計算されやすいという性質があります。
贈与税の最高税率は55%です。
仮に株価が6億円と評価された非上場株式を、対策なしで後継者の息子さんに贈与したとします。税率と控除額の計算次第では、贈与税の額が3億円を軽く超えることがあります。会社の価値と同じくらいの現金を税金として納めなさい、と言われているようなものです。
「それじゃ会社を売って税金を払うしかない」そんな声が聞こえてきそうですが、そこまで追い込まれる前に打てる手があります。
承継前に株価を「計画的に」下げる
非上場株式の評価額は、対策次第で合法的に圧縮することができます。代表的な手法を見てみましょう。
役員退職金の支払い
会社から経営者に退職金を支払うと、その分だけ会社の純資産が減ります。純資産が減れば、株式の評価額も下がります。退職金自体にも税制優遇があり、一定額まで非課税枠が設けられているため、節税効果が二重に働くことも少なくありません。
収益不動産の取得
収益不動産を法人で購入すると、相続税評価額と市場価格の間に差が生まれます。この「評価の差」を活用することで、株式評価額を引き下げる効果が期待できます。
どちらの手法も、「株価を下げるために有効」というだけでなく、承継後の会社経営にも影響してくる話です。場当たり的に使うのではなく、全体の計画の中に組み込んで設計することが不可欠です。
2027年12月末という「終わりの日」
ここで絶対に知っておいてほしいことがあります。
事業承継税制には「特例措置」という制度があり、一定の要件を満たせば贈与税・相続税の納税を猶予・免除してもらえる仕組みが存在します。うまく活用できれば、先ほどの3億円超の贈与税がゼロになる可能性すらあります。
ただし、この特例措置を使うためには、2027年12月31日までに「特例承継計画」を都道府県に提出することが条件です。
今日から逆算すると、あと1年半ほどしかありません。しかも、対策の設計から実行まで、通常2〜3年はかかります。税理士との相談、後継者の選定、株価の評価、退職金額の試算、計画書の作成……。やることは決して少なくないのです。
「まだ余裕がある」は一番危険な思い込みです
「自分はまだ60代前半だから、もう少し先でいい」
こう思っているオーナー経営者が、実は一番リスクを抱えているかもしれません。病気や事故で急に経営ができなくなる可能性は、何歳であってもゼロではありません。
準備が間に合わないまま相続が発生すると、後継者は経営を引き継ぐどころか、莫大な税金の支払いに追われることになります。せっかく育て上げた会社が、承継のタイミングで揺らいでしまう——これが「対策なし承継」の本当のリスクです。
株価が高くなっている今だからこそ、引き下げの余地も大きく、対策を打てば打つほど効果が出やすいタイミングでもあります。まだ事業承継の専門家に相談したことがないなら、今期中に一度、税理士に現状を診てもらうことを強くお勧めします。「うちは大丈夫」と思っていたら実は3億円の爆弾を抱えていた——そんなことにならないよう、早め早めに動いてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。