先日、創業28年の製造業を経営する社長からこんな話を聞きました。「そろそろ息子に会社を渡そうと思って税理士に試算してもらったら、税金だけで3億近くかかるって言われて…現金なんてどこにもないよ」と。\n\n会社の評価額が10億を超えたあたりから、こういう話が急に現実的になります。利益が出て、会社が大きくなったのは喜ばしいこと。でも、それが「渡す」段階になって突然、数億円の壁として目の前に現れる。\n\n実はこの壁、正しい順番で5手を打てば、大幅に——場合によってはゼロに近いところまで——圧縮できます。\n\n## まず入口で株価を下げる\n\n事業承継の税金は「株式の評価額」にかかります。つまり、渡す前に評価額を下げることができれば、そもそもの課税対象が小さくなる。これが最初の手であり、最も効果が大きいステップです。\n\nここで使うのがオペレーティングリースや不動産SPCへの投資です。法人で出た利益をこれらに回すことで、会社の純資産が膨らむのを抑えられます。純資産が増えなければ、株式の評価も上がりにくい。\n\nオペレーティングリースは、特に初年度に大きな損失を計上できる構造になっているため、利益が出た年に投入するのが定石です。5,000万円の利益が出た年に同額を投資すれば、その年の株価上昇をそのまま相殺できます。\n\n「利益が出てから考える」ではなく、「利益が出る前から仕込んでおく」——これが入口を制するコツです。\n\n## 経営権を手放さずに、財産だけを渡す\n\n株価を圧縮できたら、次は「どう渡すか」の設計に移ります。多くの社長が躊躇するのが、「株を渡したら口を出せなくなるのでは」という不安です。これを解消するのが、持株会社と種類株式の組み合わせです。\n\nまず持株会社(ホールディングス)を設立し、圧縮した株式をそこに集約します。そして種類株式という仕組みを使って、「議決権のある株」と「財産権のある株(配当・相続価値)」を分離します。\n\nこの設計にすると、社長は議決権を持つ株を手元に置いたまま、財産権だけを後継者に段階的に移せます。経営の実権は自分が持ちながら、課税対象となる財産だけを少しずつ動かせる。\n\n一度に大きな贈与をすると贈与税が跳ね上がりますが、この仕組みで毎年計画的に移転すれば、税負担を平準化できます。長期的に見ると、この「設計」の工程が全体コストを最も大きく左右します。\n\n## 最後の切り札:事業承継税制の特例措置\n\nここまで2手で株式評価を十分に圧縮できたら、最後に「事業承継税制の特例措置」を乗せるのが王道の流れです。\n\nこの制度は、要件を満たした中小企業の株式を後継者に贈与・相続する際に、贈与税・相続税の納税を猶予し、一定条件を満たせば最終的に免除にできる制度です。\n\n圧縮前の10億評価にそのまま適用しても効果は限定的です。でも1〜2億まで圧縮した後に適用すれば、猶予される税額も格段に小さくなり、実質負担がゼロに近づくケースも出てきます。これが5手の”仕上げ”の一撃です。\n\nただし、この特例措置には期限があります。適用の前提となる「特例承継計画」の提出期限は2027年12月末。これを過ぎると特例が使えなくなり、通常の事業承継税制(非特例)に切り替わります。非特例でも猶予は使えますが、特例ほどの恩恵はありません。\n\n## 「順番」がすべてを決める\n\nこの5手で重要なのは、どれか1つを使えばいいという話ではなく、「順番通りに組み合わせる」ことです。\n\n株価を下げてから持株会社を設計し、整った状態で特例措置を適用する——この流れを崩すと、どの手も効果が半減します。逆に言えば、順番が正しければ、ひとつひとつは難しくない手が組み合わさって、億単位の節税につながります。\n\n現在の株式評価額が5億を超えているなら、まず専門家に現状の評価額を正確に把握してもらうところから始めてください。どの手を、どのタイミングで打つべきかは、会社の規模・業種・利益水準によって変わります。\n\n2027年末という期限は、動き始めてから計画書の作成・認定申請・実際の承継完了まで含めると、今すぐ着手してちょうどいいタイミングです。「来年から考えよう」が一番リスクの高い選択になりえます。今期中に、一度だけでもいいので専門家との相談の場を設けてみてください。\n\n※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。