先日、資産規模の大きな製造業の社長から、こんな相談を受けました。「息子に会社を継がせたいんだけど、株の評価額が10億円を超えていて、相続税をどうすればいいかわからない」と。

同じ悩みを抱えている社長は、実は非常に多いんです。会社が成長するほど株価は上がり、その分だけ相続税の負担も膨らんでいく。うまくいった会社ほど、承継が難しくなるという皮肉な構造があります。

そこで使えるのが「事業承継税制」です。正しく活用すれば、10億円を超える株式の贈与・相続にかかる税金を、実質ゼロにすることができます。ただし、制度の使い方を間違えると「猶予のつもりが、突然の多額納税」という事態になりかねません。

今日は、事業承継税制を活用するうえで必ず押さえておきたい3つの条件をお伝えします。

まず「一般措置」か「特例措置」かを確認する

事業承継税制には、「一般措置」と「特例措置」の2種類があります。この違いを知らずに進めると、後になって大きな損失が生まれることがあります。

一般措置では、課税猶予の対象になるのは発行済株式の3分の2までです。残りの3分の1は通常通り課税されます。10億円の株式評価なら、約3.3億円分には税金がかかり続ける計算です。

一方、2018年から始まった特例措置なら、全株100%が課税猶予の対象になります。10億円なら10億円、すべてが猶予対象です。この差は非常に大きい。

特例措置には「2027年3月31日までに特例承継計画を都道府県に提出する」という期限が設けられています。期限はじわじわと近づいていますので、自社がどちらの措置を使えるのか、まず確認することをおすすめします。

後継者の要件は「思ったより厳しい」

「息子に継がせるんだから大丈夫」と思っている社長が多いのですが、要件はもう少し細かく決まっています。ここで引っかかるケースが意外と多いんです。

後継者は、贈与・相続後に代表者に就任していることが必要です。取締役や副社長にはなったけれど、代表は親が続けているというケースでは、要件を満たしません。そして後継者を含む同族グループで、筆頭株主になることも求められます。

株式が複数の親族に分散していて、後継者グループが筆頭でない場合も対象外です。「名義は分散しているが実態は後継者中心」という状態でも、形式上の要件は厳しく見られます。

特例措置では最大3名への分散承継も認められるようになりました。複数の子に引き継がせたいケースでは、誰をどの割合で後継者にするかの設計が重要になってきます。

最も誤解が多い:「猶予」と「免除」は全くの別物

ここが、事業承継税制で最も誤解されているポイントです。制度の名称や説明を聞いて「5年間事業を続ければ税金がなくなる」と思っている社長は、少なくありません。しかし、それは誤りです。

事業承継税制はあくまで「納税の猶予」です。5年間の事業継続期間が終了しても、税金が消えるわけではなく、猶予が継続するだけです。免除が確定するのは、後継者の死亡、次の代への再承継など、特定の事由が発生したときに限られます。

つまり、何もしなければ「免除されないまま猶予が続く状態」が何年も続くことになります。この状態で株式を売却したり、廃業を決断したりすると、猶予されていた税金と利子税が一気に発生します。数十年後に後継者が「こんなはずじゃなかった」と青ざめるケースが、現実に起きています。

猶予を受ける段階から、どうやって免除に持ち込むかまで設計しておくことが不可欠です。出口を見据えた設計なしに、入口だけ整えても意味がありません。

承継を考えはじめたら、早めに動くべき理由

事業承継税制は、うまく使えれば非常に強力な節税手段です。しかし、要件確認と出口設計を間違えると、後継者に大きな負担を残す結果になります。

特例措置の期限は2027年3月末と決まっています。計画書の作成・提出には時間がかかりますし、後継者の体制を整えるにも相応の準備期間が必要です。「そのうち考えよう」と後回しにしている間に、選択肢が狭まっていきます。

自社の株式評価額が大きければ大きいほど、1つの見落としが億単位の損失につながります。事業承継を考えはじめたタイミングで、ぜひ一度、事業承継に精通した税理士に相談してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。