先日、ある機械部品メーカーを経営する60代の社長と話す機会がありました。3年後の引退を見据えて、息子さんへの承継を考えているそうです。
「税理士にも相談したんだけど、株式の評価が2億円近くになっていてね。相続税がどうしても2〜3千万円はかかるって言われて。仕方ないかなと思っていたんだよ」
その言葉を聞いて、思わずこう聞き返しました。「事業承継税制の特例措置、使わないんですか?」
沈黙。社長はポカンとした顔をしていました。
税負担をゼロにできる制度がある
非上場の中小企業オーナーが後継者に株式を移転する際、相続税・贈与税が全額猶予される制度があります。「事業承継税制の特例措置」です。
通常の事業承継税制でも80%の猶予がありますが、特例措置では**100%**猶予されます。要件を満たし続ける限り、後継者が会社を経営している間は猶予が取り消されることはありません。実質的には相続税・贈与税がゼロになる、という制度です。
株式評価が1億円を超える会社では、数千万円単位の差が生まれます。冒頭の社長のケースなら、2〜3千万円の税負担がそのままゼロになる可能性があります。
なぜ「97%が払っている」のか
これほど大きな恩恵がある制度なのに、なぜ多くの社長が使えていないのでしょうか。
理由はいくつかあります。「制度を知らない」「顧問税理士から提案がなかった」「先送りにしているうちに時間が経った」。実際、特例措置の適用件数は、対象となりうる中小企業の数と比べるとごくわずかです。
そして最も問題なのが「そのうちやろう」という先送りです。なぜなら、この制度には明確な締め切りがあるからです。
2027年12月31日という期限
特例措置を活用して株式移転を実行できるのは、2027年12月31日までです。
この日を過ぎると、特例措置の適用は受けられなくなります。その後に承継するなら、通常の事業承継税制か、通常の相続・贈与税を払うことになります。
「2年弱あるじゃないか」と思うかもしれません。でも、事業承継の準備は時間がかかります。
特例措置を使うには、まず都道府県に「特例承継計画」を提出して認定を受ける必要があります。そこから後継者の選定と育成、株式評価の確定、金融機関や取引先への説明、実際の株式移転と続きます。順調に進んでも1〜2年はかかるケースが多いです。
「2027年末に間に合わせる」ために動き始めるタイムリミットは、今からすぐです。
まず顧問税理士に聞くべき一言
では、何から始めればいいか。シンプルにこう聞いてみてください。
「事業承継税制の特例措置、うちはまだ使えますか?」
この一言だけです。
もし「うちには関係ない」「そういうケースじゃない」と言われたら、その理由をしっかり確認してください。株式評価が高い会社なら、本来は検討の価値があるはずです。反応が薄かったり、制度をよく知らなそうだったりするなら、事業承継専門の税理士にセカンドオピニオンを求めることをおすすめします。
事業承継は一度きりの判断です。同じ会社を同じタイミングで承継しても、「制度を使った」か「知らなかった」かだけで、数千万円の差が生まれます。
まだ何も動いていないなら、今日中に顧問税理士に一本連絡を入れてみてください。その一言が、数千万円の節税につながるかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。