先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「会社は順調なんですが、そろそろ息子に引き継がせたくて。ただ、株価がどのくらいになるのか計算してもらったら、正直、頭が真っ白になりました」

その会社、創業30年で従業員も50名を超え、毎期しっかり利益を出している優良企業です。でも承継の話になった途端、社長の表情が曇った。その理由が、非上場株の相続税にあります。

利益を出せば出すほど、承継コストが上がる

非上場株を相続するときの税率は、最高で55%です。株価評価が10億円なら、単純計算で5億円を超える相続税がかかる可能性があります。

上場株であれば、その日の市場価格がそのまま評価額になります。でも非上場企業の場合、税務署が独自のルールで評価します。そのルールでは「会社の純資産」と「過去3年の利益・配当」が基準になるため、長年にわたって利益を積み上げてきた優良企業ほど、株価評価が高くなってしまうんです。

頑張って会社を大きくするほど、承継のコストが増える。まるで逆説のような話ですが、これが現実の税制です。

現金がなければ、株を手放すしかない

相続税が5億円かかるとして、その資金が手元にあるでしょうか。株式評価が高くても、それは「会社の価値」であって現金ではありません。

相続時に資金が足りなければ、株を売却するしか選択肢がなくなります。株を手放すということは、経営権を失うということ。一代、二代と守り続けた会社が、税金を払えないという理由で他人の手に渡ってしまう。これが「会社が消える」という表現の意味です。

承継前に対策を打っておくことが、会社を守る唯一の方法です。

株価を引き下げる3つのアプローチ

対策の基本は「承継が発生する前に株価評価を下げておく」こと。主な手段は3つあります。

持株会社(ホールディングス)化は、事業会社の上に親会社を作り、そこに株式を集める方法です。適切に設計すると評価額を圧縮しやすくなりますが、グループ全体の組み替えが必要なため、税理士・司法書士と連携した早期の準備が前提になります。

従業員持株会は、社員が自社株を少額ずつ取得する仕組みです。株主が分散されることで評価額に割引が適用され、かつ社員のエンゲージメント向上にもつながる一石二鳥の施策です。

そして最も効果が大きいのが、事業承継税制の特例措置です。この制度を使うと、後継者への株式移転にかかる贈与税・相続税の納税を猶予、条件を満たせば実質的に免除できます。中小企業にとって最強クラスの節税スキームと言っていいでしょう。

2027年末という「見えない締め切り」

ただし、この特例には重大な期限があります。特例の適用を受けるには、2027年12月31日までに「特例承継計画」を都道府県に提出する必要があります。この期限を過ぎると、特例は使えなくなります。

「まだ60代だし、もう少し先でいいかな」という社長は少なくありません。でも、計画書の作成・提出から実際の株式移転まで、準備には相当な時間がかかります。税理士・公認会計士・司法書士が連携し、銀行との調整も必要なケースもある。動き始めてから「間に合わなかった」では取り返しがつきません。

株価が上がり続けているなら、対策は早ければ早いほど効果が大きい。評価が低いうちに手を打つのが鉄則です。

まず「自社の株価」を数字で把握することから

いきなり持株会社を作る必要はありません。最初の一歩は、自社の株価評価がいくらになるのかを、税理士に試算してもらうことです。

「怖いから見たくない」という気持ちはよくわかります。でも、現実の数字を把握しなければ、対策の優先順位も立てられません。そして特例申請の期限は、確実に近づいています。

まだ株価評価の試算をしていないなら、今期中に一度、顧問税理士に相談してみてください。会社を次の世代に渡すための対策は、数字を直視するところから始まります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。