先日、都内で製造業を営む社長から、こんな相談を受けました。
「三原さん、うちの財産って、子どもに半分しか渡せないって本当ですか?」
大げさに聞こえるかもしれませんが、現実はかなりそれに近い話です。日本の相続税の最高税率は55%。億を超える資産をお持ちの経営者なら、何もしなければ財産の半分近くが税金で消えることは珍しくありません。
しかも相続は突然やってきます。準備なしに迎えると、会社の株式や不動産を売却して納税するという最悪の事態にもなりかねない。今回は、今すぐ始めれば効果が出る生前対策を3つ、整理しました。
即日実行できる「生命保険の非課税枠」
最初に押さえておきたいのが、生命保険の死亡保険金に設けられた非課税枠です。
「500万円×法定相続人の数」が相続税の課税対象から外れます。配偶者と子ども2人の合計3人が相続人なら、1,500万円がそのまま手元に残る計算です。
この対策の最大のメリットは、今日にでも動けること。銀行口座に眠らせているお金を保険料に振り替えるだけで、相続財産を確実に圧縮できます。非課税枠は法律で明示されているため、税務調査でひっくり返されることもありません。
資産規模が大きい方でも、まずここから着手するのが定石です。「手堅く確実に」を優先するなら、これ以上の一手はありません。
「暦年贈与」は今すぐ始めないと手遅れになる
生前対策の王道といえば、毎年少しずつ財産を移す暦年贈与です。年間110万円までは贈与税がかからないため、コツコツ渡し続けることで相続財産を着実に減らしていけます。
ただし、2024年の税制改正で見逃せない変更がありました。
それまでは「亡くなる前3年以内の贈与は相続財産に加算される」というルールでしたが、改正後はこの加算期間が最長7年まで延びます。段階的に延長されていき、2031年以降は7年加算が完全に適用されます。
贈与の効果が出るまでに最大7年かかる時代になった、と理解してください。「70歳になってから始めよう」では遅すぎる。50代から始めていた人と60代後半から始めた人では、相続財産の差が何千万円にもなります。今すぐ始める、それだけで対策の質が大きく変わります。
本命は「自社株・不動産の評価圧縮」
経営者の資産で最も大きいのは、多くの場合、自社株式と不動産です。そしてここが、最も対策の効果が出やすい場所でもあります。
非上場株式は純資産価額方式で評価されると、実態より高く評価されやすい構造になっています。対策としては、持株会社を活用して保有構造を組み替えたり、不動産をSPC(特定目的会社)で保有する形に変えることで評価額を下げられるケースがあります。億単位の評価差が生まれることも珍しくありません。
さらに、事業承継税制の特例措置も今が最後のチャンスです。この制度を適用すれば、後継者が自社株式を引き継ぐ際の贈与税・相続税の納税を猶予・免除してもらえます。ただし、特例措置の申請期限は2027年12月31日。残り約1年半を切っています。
要件を整えるには相応の時間がかかります。「2027年になってから動こう」では間に合いません。今から顧問税理士と準備を進めることが不可欠です。
相続対策は「早く始めた人が勝つ」
生命保険・暦年贈与・評価圧縮の3つに共通しているのは、始めるのが早いほど効果が大きいという点です。
相続はいつ発生するかわかりません。でも対策には時間が必要で、とりわけ経営者にとって相続は自社の行方とも直結する問題です。資産を守ることは、会社を守ることでもあります。
もしまだ具体的な対策に手をつけていないなら、今期中に顧問税理士と一度じっくり話す時間を作ることをおすすめします。「いつかやろう」が一番高くつく選択です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。