先日、年商12億の製造業を営むS社長から、こんな相談を受けました。
「来年、息子に会社を引き継がせようと思っているんだけど、税理士に試算してもらったら相続税が3億超えるって言われて。そんな現金、息子には用意できないよ」
この話、決して他人事ではありません。会社が好調であればあるほど、実は相続税の「罠」にはまりやすい構造になっているんです。
利益が出るほど、相続税が上がる仕組み
非上場の中小企業の場合、自社株の相続税評価額は主に「純資産」と「利益」をもとに計算されます。つまり、会社が儲かって内部留保が積み上がるほど、株価評価も連動して上がっていく仕組みです。
年商10億を超えるような会社では、自社株の評価額が10億〜15億円になることも珍しくありません。相続税の最高税率は55%ですから、対策なしで相続を迎えると、後継者は数億円の現金を即座に用意しなければならない事態になります。
S社長のケースでは、20年かけて育て上げた会社が、息子への「3億円の贈り物」ならぬ「3億円の請求書」になっていたわけです。
合法的に、評価額を最大70%下げる3つの方法
ここからが本題です。適切な対策を計画的に講じれば、自社株の相続税評価額を合法的に最大70%引き下げることができます。主な手法は3つあります。
① 役員退職金で純資産を圧縮する
計画的に役員退職金を支払うことで、株価の算定基礎となる純資産を圧縮できます。退職金は会社側で損金算入でき、受け取る役員側も退職所得として分離課税になるため、節税効果が二重に働く手法です。
② 従業員持株会で株を分散させる
株の一部を従業員持株会に保有させることで、オーナーの持分を分散できます。持株会経由で取得した株には「配当還元方式」という有利な評価方法が適用できるため、全体の評価額を大きく抑えられます。
③ 持株会社スキームで評価方式ごと切り替える
事業会社の上に持株会社(ホールディングス)を置く構造にすることで、評価方式そのものを切り替えることができます。特定の条件を満たすと「類似業種比準価額方式」が適用でき、純資産ベースの評価より評価額が大幅に低くなるケースがあります。
「直前対策」は税務署に狙われる
ただし、絶対に知っておいてほしい注意点があります。これらの対策を相続の直前に慌てて実施すると、税務署から「租税回避行為」として否認されるリスクが格段に高まります。
実際、相続税の税務調査率は他の税目と比べて高く、大型の自社株をめぐる否認事例は年々増加しています。節税効果を確実に得るためには、相続発生の5〜10年前から計画的に動くことが絶対条件です。
S社長の「来年引き継ごう」という状況では、残念ながら打てる手がかなり限られてしまいます。それでも今からできる対策を一緒に考えることにしましたが、もし3年前に相談してくれていたら、と少し悔やまれます。
「うちはまだ早い」が一番危ない
事業承継は「いつかやろう」と後回しにしがちですが、株価対策だけは時間が命です。会社が成長しているまさにそのタイミングが、動き出す最適な時期でもあります。
まずは一度「今の自社株評価がいくらか」を試算してみてください。その数字を見てから対策を考えるかどうか判断しても遅くはありません。まだ事業承継の専門家に相談したことがないなら、今期中に一度、現状の評価額だけでも把握しておくことを強くおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。