先日、年商8億円の精密部品メーカーを経営する60代の社長から、こんな相談を受けました。「税理士から相続税のシミュレーションを出してもらったら、6億円という数字が出てきた。自分が死んだら、会社を売らないと払えないかもしれない」と。

顔が青ざめていたのを今でも覚えています。

問題は、その社長が持つ自社株の評価額でした。会社の純資産が膨らんでいたため、「純資産価額方式」で評価すると含み益がそのまま課税対象に乗ってきます。業績が良い会社ほど、株価は上がり続ける一方です。

でも、この話には続きがあります。評価方法を見直したところ、同じ株式の評価額が大きく変わったのです。

同じ株式でも、評価方法次第で金額が激変する

非上場株式の評価方法には、主に2つがあります。「純資産価額方式」と「類似業種比準方式」です。

純資産価額方式は、会社の純資産(資産-負債)をベースに計算します。含み益も反映されるため、業績好調な会社や不動産を多く持つ会社はどうしても高く評価されます。

一方の類似業種比準方式は、上場している同業他社の株価を参考に評価する方法。配当・利益・純資産という3つの指標を使い、上場企業の平均値と比較して算出するため、一般的に純資産価額方式より低い評価が出やすい傾向があります。

同じ会社・同じ株式なのに、評価方法が変わるだけで金額が変わる——これが非上場株式の大きな特徴です。

冒頭の社長の場合、純資産価額方式で10億円とされていた評価額が、類似業種比準方式を主体に組み合わせると3億円台まで圧縮できることがわかりました。相続税の計算のベースが変わるわけですから、税額への影響は当然、億単位になります。

カギは会社の「規模区分」にある

ここで重要なのが、「規模区分」という概念です。

非上場株式の評価では、会社の規模によって適用できる評価方式の割合が変わります。売上高・従業員数・総資産のいずれかをもとに、会社は「大会社」「中会社(大・中・小)」「小会社」に分類されます。

規模が大きい会社ほど、類似業種比準方式の適用割合が高くなります。具体的にはこうなっています。

  • 大会社:類似業種比準方式100%で評価可能
  • 中会社(大):類似業種比準方式90%+純資産価額方式10%
  • 中会社(中):類似業種比準方式75%+純資産価額方式25%
  • 中会社(小):類似業種比準方式60%+純資産価額方式40%
  • 小会社:純資産価額方式が主体

小会社に分類されると純資産価額方式が中心になり、評価額を下げにくくなります。一方、大会社に近い区分であれば、類似業種比準方式が効いて評価額を大きく抑えられます。合法的に課税対象を減らす余地は、この「規模区分」の中に潜んでいます。

業種によって「大会社」の基準が違う

「うちの売上なら大会社では?」と思われた社長もいるかもしれません。

実は、規模区分の判定基準は業種によって異なります。卸売業なら売上20億円以上または従業員35人超で大会社になれますが、小売業・サービス業は売上5億円以上または20人超が目安です。製造業・建設業は売上15億円以上または従業員35人超が大会社の基準です(正確な数値は国税庁の告示で確認ください)。

同じ売上10億円でも、業種によって区分がまったく変わります。だからこそ、自社の区分を一度きちんと確認することが大切です。

また、規模区分を上げるための対策も、早い段階から検討する価値があります。従業員数の増加やグループ内の組織再編など、合法的な手法で区分を変えられるケースもあります。税理士と連携しながら、数年単位で計画的に進めることが重要です。

「先の話」だからこそ、今動く

相続は突然やってきます。対策が打てるのは、元気に経営できる今のうちだけです。

多くの社長が「まだ若いから」「事業承継はもう少し先」と先送りにしています。しかし、評価額の圧縮策は、設計から実行までに時間がかかるものが多い。思い立ったときに動かないと、間に合わないことがあります。

今すぐ確認してほしいことは2つだけです。

  1. 自社の規模区分(売上・従業員数から判定できる)
  2. 類似業種比準方式と純資産価額方式、それぞれで試算した場合の評価額の差

顧問税理士に「自社株評価の試算と、評価圧縮の余地があるか確認したい」と一言伝えるだけで、具体的な数字が出てきます。

知っているかどうかで、相続税の金額が数億円変わることもある世界です。ぜひ今期中に一度、自社株の評価について専門家と話してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。