先日、ある製造業の社長からこんなメッセージが届きました。
「顧問税理士に事業承継の話を相談したら、『今さら遅い』と言われた。1億円以上の節税ができたはずなのに、もう使えないと。なぜ誰も事前に教えてくれなかったんですか……」
読んでいて、胸が痛くなりました。年商10億円、株式評価額が3億円を超える会社を30年かけて育てた社長が、たった一つの期限を見逃していたのです。
事業承継税制の「特例措置」という制度
事業承継税制には「一般措置」と「特例措置」の2種類があります。
一般措置は以前からある制度で、後継者が自社株式を引き継ぐ際、株式の3分の2について評価額の80%が猶予されます。決して小さくない優遇ですが、特例措置はさらに強力です。
特例措置では、すべての株式について贈与税・相続税が最大100%猶予されます。株式評価額が3億円の会社であれば、通常の相続では1億円を超える税金がかかるケースもあります。それが猶予——場合によっては免除——されるわけです。
「なぜみんな使わないの?」と思いますよね。答えは、使うためにやるべき手続きに期限があったからです。
2026年3月31日に何が終わったか
特例措置を適用するためには、「特例承継計画」という書類を都道府県に提出する必要がありました。この提出期限が2026年3月31日。すでに過ぎています。
未提出の会社は、今後この特例措置を一切使えません。どんなに優秀な税理士を連れて行っても、どんなに事情を説明しても、期限後の受付は行われません。
「なぜ税理士から教えてもらえなかったのか」と腹が立つ気持ちはよくわかります。ただ、事業承継を専門とする税理士は意外と少なく、法人税申告メインの顧問税理士だとこういった期限情報が抜け落ちてしまうことがあります。「知らなかった」は悲しいですが、珍しいことではないのです。
計画を提出した会社には、まだ時間がある
朗報もあります。2026年3月末までに特例承継計画を提出していた会社は、今も特例措置の対象です。
実際の贈与や相続を実行する期限は2027年12月31日。つまり、計画を出していた社長にはまだ約1年半の猶予があります。
株式評価額が高い会社ほど節税効果は大きくなります。「計画は出したが、まだ実行していない」という状況であれば、今すぐ専門家に連絡を取ってください。期限まで時間があるように見えても、準備には半年以上かかることも多く、後回しにする余裕はありません。
特例を逃した会社の選択肢
では、計画を提出していなかった会社はどうすればいいのでしょうか。「節税の手段が何もなくなった」というわけではありません。
一般措置はまだ使える
特例措置ほどの威力はありませんが、一般措置では株式の3分の2について評価額の80%が猶予されます。株式評価額3億円の会社であれば、それでも数千万円規模の節税になりえます。厳しい期限の縛りもなく、今から準備を始めることができます。
持株会社の活用
後継者が持株会社を設立し、そこを経由して自社株を引き継ぐ方法もあります。設計次第では株式評価額を圧縮しながら承継できるため、一定の節税効果を生み出せます。ただし、設計を誤ると税務リスクが発生するため、必ず実績ある専門家と組んで進めることが前提です。
段階的な贈与を早めに始める
毎年110万円の基礎控除を活用しながら、株式を少しずつ後継者に移転していく方法も有効です。時間はかかりますが、社長が元気なうちから計画的に始めれば、税負担を長期間にわたって分散させることができます。
どの手段が最適かは会社の規模・株式評価額・後継者の状況によって変わります。「うちには何が使えるか」を一度整理することから始めてみてください。
事業承継を「いつかやる」にしてはいけない理由
今回の特例措置の締切を見ても分かるように、事業承継の税制優遇には「使える期間」があります。制度は変わり、評価額も変わり、社長自身の健康状態も変わります。
「自分はまだ元気だから、もう少し先でいい」という社長ほど、気づいたときには選択肢が大幅に狭まっています。
もし今の顧問税理士が事業承継を専門にしていないなら、一度セカンドオピニオンを求めることを強くお勧めします。株式評価額が1億円を超える会社であれば、専門家への相談料は小さな投資です。
まだ手が打てる今のうちに、事業承継について具体的に動き始めてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。