先日、従業員60人の食品加工会社を経営する社長から「息子への承継、どの方法が一番得になりますか?」という相談を受けました。

試算してみると、同じ会社を同じ息子に引き継ぐのに、選ぶ手法によって手元に残るお金が3億円以上変わることがわかりました。社長は「そんなに差が出るんですか……」と絶句していましたが、これは決して珍しい話ではありません。

事業承継には大きく3つのルートがあります。「特例措置」「一般措置」「株式譲渡(売却)」です。どれも「会社を次世代に渡す」という目的は同じですが、税金の扱いがまったく異なります。今回はその違いを、実際の数字を交えながら整理してみます。

特例措置:一度使えば税負担がゼロに近づく

特例事業承継税制は、2018年の税制改正で創設された期間限定の優遇制度です。

2024年3月31日までに「特例承継計画」を都道府県知事に提出していた場合、後継者への株式の贈与税・相続税が全額(100%)猶予されます。猶予ですから、後継者が一定の要件を満たしながら会社を継ぎ続ける限り、実質的に免除されるケースがほとんどです。

株式評価額が6億円の会社であれば、本来は2〜3億円規模の税負担が生じます。それがゼロになるわけですから、その恩恵は計り知れません。

ただし、実行期限は2027年12月31日まで。計画を提出済みの社長には、残り18ヶ月で贈与または相続の実行判断が必要です。「まだ先の話」と思っているうちに、あっという間に期限が来ます。

一般措置:今からでも動ける恒久制度

一般措置は期限のない恒久制度で、事前の計画申請がなくても今から活用できます。

猶予率は株式の80%相当部分まで。特例措置と比べると猶予の範囲が狭く、残りの20%部分には通常の贈与税・相続税がかかります。

先ほどの6億円の会社で試算すると、特例措置より数千万〜1億円以上多く税負担が発生することもあります。それでも「8割が猶予される」のは大きなメリットです。特例の計画提出が間に合わなかった方も、この一般措置はまだ使えます。諦める前に、まず試算してみることをおすすめします。

株式譲渡(売却):税率は一律20%、計算はシンプル

後継者候補がいない、あるいは「会社をキャッシュに換えたい」という場合は、M&Aや親族への有償譲渡という選択肢があります。

売却益に対しては20.315%の分離課税が適用されます。贈与税・相続税の複雑な猶予計算がない分、税額の見通しが立てやすいのが特徴です。

ただし、6億円で売れた場合、取得原価を差し引いた売却益に約20%が課税されます。承継税制の猶予と比較すると、手元に残るキャッシュの差は大きくなります。「シンプルさ」と「税負担の大きさ」をどう天秤にかけるか、が判断のポイントになります。

3手法を並べると、差はこう出る

手法株式の課税特徴
特例措置100%猶予計画提出済みが前提。2027年末に実行期限
一般措置80%猶予今からでも使える。恒久制度
株式譲渡売却益に20.315%後継者不在でも対応可。計算がシンプル

同じ会社を引き継ぐのに、手法の選択だけで数億円単位の差が生まれる。これが事業承継の現実です。

計画提出済みの社長へ:今が動き時です

特例承継計画を提出済みの社長にとって、今は非常に重要な局面です。贈与の実行には株式評価の確定、後継者との合意形成、場合によっては組織再編など、準備に時間がかかる手続きが多くあります。

今期の決算が終わったタイミング、あるいは来年度の計画を立てる時期に、顧問税理士と「承継の実行スケジュール」を具体的に確認しておいてください。2027年末はもうすぐそこです。

まだ何も動いていない方も、一般措置という選択肢があります。「特例の期限を逃した」と思っていても、まだ有効な制度が残っています。手遅れになってから後悔するより、今期中に一度、試算を依頼してみることを強くおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。