先日、年商8億の精密部品メーカーを経営する60代の社長から、こんな言葉を聞きました。\n\n「息子に継がせるつもりはあるんですよ。でも今は現場が忙しくて、もう少し落ち着いたら本格的に考えようかと思って」\n\nその瞬間、私は思わず聞き返してしまいました。「社長、“もう少し”って、何年後のことですか?」\n\n## 業績が上がるほど、税負担も上がる\n\n事業承継を後回しにしている社長の多くが見落としているのが、「自社株評価額の上昇」という問題です。\n\n非上場会社の株式は、会社の業績が良ければ良いほど評価額が上がります。売上が伸び、利益が積み上がるほど、自社株の評価も比例して高くなる仕組みです。\n\nつまり、経営者として一生懸命頑張れば頑張るほど、将来の相続税の負担も膨らんでいくわけです。\n\nたとえば、現在の自社株評価が5億円の会社が、5年後に業績好調で10億円に上がったとします。課税対象の資産が5億円増えた場合、税率によっては2〜3億円以上の相続税の負担増になります。「忙しかった5年間」の代償として、3億円超の請求書が届くケースは、決して珍しくありません。\n\n## 2027年12月31日という締め切り\n\nここで必ず知っておきたい制度が、「非上場株式等の贈与税・相続税の納税猶予の特例措置」、いわゆる事業承継税制の特例です。\n\nこの制度を使えば、後継者への自社株の承継にかかる相続税・贈与税が、要件を満たすことで全額猶予されます。億単位の税負担が、実質ゼロになるケースも実際にあります。\n\nただし、この特例措置には明確な期限があります。2027年12月31日までに「特例承継計画」を都道府県知事に提出することが必要です。\n\n「2027年末ならまだ2年近くある」と感じるかもしれません。しかし、特例承継計画の作成・提出だけで数ヶ月かかることも多く、その後に贈与・相続の実行、認定手続き、5年間の事業継続要件の確認と、ステップを順番に踏む必要があります。今から動き始めても、余裕があるとは言えない状況です。\n\n## 「株価が低い今」こそ動けるタイミング\n\n事業承継で絶対に意識してほしいのが、「株価が低いうちに動く」という原則です。\n\n贈与税・相続税は、承継を実行した時点の株式評価額に対してかかります。株価が低いタイミングで承継を実行すれば、それだけ税負担は小さく抑えられます。逆に、業績が伸びて株価が高くなってからでは、特例制度を活用しても課税対象の「ベース」自体が大きくなっているため、節税効果が限定的になります。\n\nコロナ禍を乗り越えた多くの中小企業が、ここ数年で業績を回復・拡大させています。今まさに株価が上昇局面にある会社にとって、今期・来期が承継設計を始める最後のチャンスになる可能性があります。\n\n## 「忙しい社長」ほど一度立ち止まってほしい\n\n事業承継を先送りにしがちな社長には、共通点があります。「業績が好調で、日々の経営に追われている」という状態です。\n\nでも、それこそが危険なサインでもあります。業績が好調 → 株価が上昇中 → 将来の税負担が膨らんでいる、という構図が同時進行しているからです。\n\n最初の一歩は、それほど大げさなことではありません。顧問税理士に「うちの自社株の評価額を一度試算してほしい」と伝えるだけで十分です。現状を数字で把握するだけで、危機感も、対策の方向性も、ぐっと具体的になります。\n\n「5年後に本格的に考えよう」ではなく、「今期中に現状診断だけでもしておく」。その一歩が、数億円単位の差を生むことがあります。まだ何も動いていない社長は、今期中に一度、事業承継に詳しい税理士への相談を検討してみてください。\n\n※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。
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