先日、従業員30名ほどの製造業を経営する社長から、こんな相談が届きました。「顧問税理士に自社株の評価を試算してもらったら、10億円と言われた。これ、息子に引き継いだら相続税はいくらになるんですか?」

計算してみると、相続税は4億円を超えていました。電話越しでも、社長の表情が変わったのがわかりました。

「会社が大きい」は、後継者の重荷になる

非上場会社の株式は、相続や贈与の際に独自のルールで評価されます。長年かけて育てた会社が「10億円の資産」と評価されることは、経営者として誇らしいことのはずです。

でもそれは同時に、「後継者が4億円超の相続税を現金で払わなければならない」という現実を意味します。事業を継ぐための資金まで税金に充てることになれば、後継者はスタート地点から重荷を背負うことになります。

知っておいてほしいのは、この「10億円」という評価額は、事前の設計によって大きく変わるということです。

評価の仕組みを知ることが、第一歩

自社株の評価でよく使われるのが、類似業種比準価額方式です。上場している同業種の会社の株価を基準にしながら、自社の「利益・配当・純資産」という3つの指標と比較して株価を算出する方法です。

この方式のポイントは、3つの指標が事前の決算設計によって動かせるという点にあります。適切に調整することで、評価額を合法的に引き下げることができます。実際に10億円の評価を4億円以下まで圧縮した事例は、珍しいものではありません。

具体的に何をするか

代表的な手法を3つ紹介します。

役員退職金の支給は、最もインパクトの大きい手法のひとつです。オーナー社長が退職するタイミングで多額の退職金を支給することで、会社の純資産が一気に圧縮されます。退職金は損金算入されるため、利益も同時に下がります。類似業種比準価額の3指標のうち2つに同時に効くため、設計次第で評価額を大幅に下げられます。

設備投資による純資産圧縮も有効です。直前期に機械や設備への投資を行うと、帳簿上の純資産が減少します。「いつ投資するか」という時期の設計だけで、評価額は変わります。もともと投資を考えていたなら、タイミングを意識するだけで節税効果が生まれます。

持株会社スキームは、やや上級の手法です。事業会社の株式を持株会社(ホールディングス)に移すことで、評価方式そのものを変えられるケースがあります。組成には時間とコストがかかりますが、規模の大きい事業承継では検討に値します。

2027年末、特例措置の期限が迫っている

急いでほしい理由がもうひとつあります。事業承継税制の特例措置の適用申請期限は、2027年12月31日です。

この特例を活用すると、自社株の相続税・贈与税を最大100%猶予(実質的な免除に近い扱い)できます。ただし、特例を受けるには事前に「特例承継計画」を都道府県に提出する必要があり、計画の策定には半年〜1年かかることも少なくありません。

「2027年まであと1年以上ある」と感じているなら、少し認識を改めてほしいところです。実際に動くなら、今すぐ税理士と設計を始めないと、期限を逃すリスクが出てきます。

「まだ先の話」が最大のリスク

事業承継の相談でいちばん多く耳にするのは、「もっと早く相談すればよかった」という後悔の言葉です。

評価引下げの多くの手法は、「直前期の数字を使う」「資金の移動に一定の時間が必要」という制約があります。今期の決算が終わってから動き始めると、使えたはずの手法が使えなくなる、ということが実際に起きています。

自社株の評価額をまだ把握していない社長は、まず顧問税理士に「相続税評価額の概算を出してほしい」と依頼するところから始めてみてください。数字を把握するだけで、どんな打ち手が取れるかが見えてきます。今期の決算が終わる前に、一度確認しておくことをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。