先日、地方で建設業を営む二代目社長からこんな相談を受けました。「親父から会社を継いで10年、おかげさまで業績は右肩上がりなんですが……自分が死んだとき、息子に会社を残せるかどうかが急に怖くなってきて」

話を深掘りすると、会社の純資産は気づけば10億円を超えていました。そしてその瞬間、私はひとつのことが頭をよぎりました。「この会社、今すぐ手を打たないと、相続で大変なことになる」と。

好業績の会社ほど、自社株が「爆弾」になる

非上場会社の株式は市場で売買されないため、相続が発生したとき、税法上のルールで評価額を計算します。その計算方法のひとつが「純資産価額方式」です。

名前の通り、会社の純資産を時価ベースで評価する方法で、利益をコツコツ積み上げてきた優良企業ほど、評価額が高くなりやすい構造になっています。つまり、経営者として真面目に頑張ってきた結果が、そのまま相続税の重さに変わってしまうわけです。

仮に自社株の評価額が10億円だったとします。何も手を打たなければ、相続人の税負担は4〜5億円台になることも珍しくありません。後継者が相続税を払うために、会社の資産を切り売りしなければならない——そういう悲劇が、実際に毎年どこかで起きています。

評価を下げる手法は、大きく3つある

では、合法的に評価を引き下げるにはどうすればいいのか。代表的な手法を順番に見ていきましょう。

①類似業種比準方式の比準要素を最適化する

非上場株の評価には「類似業種比準方式」という方法もあります。同業の上場企業の株価を参照しながら、配当・利益・純資産の3要素を組み合わせて評価額を算出する仕組みです。決算をまたぐ中長期の視点で、利益水準や配当方針を計画的に設計することで、評価額を引き下げる余地が生まれます。単年では効果が限定的でも、数期にわたる設計で大きな差が出ることがあります。

②持株会社を設立して株式構造を組み替える

オーナーが直接事業会社の株を保有する構造から、持株会社(ホールディングス)を間に挟む構造に変える手法です。株式の評価が「階層化」されることで、直接保有よりも評価額が下がるケースがあります。億単位の効果が出ることもある手法ですが、組み替え自体にも税務上の論点があるため、専門家との緻密な設計が前提になります。

③従業員持株会へ段階的に移転する

従業員持株会に株式を移す場合、通常の相続税評価ではなく「配当還元方式」という低い評価方式が適用されます。一気に移すのではなく、数年かけて計画的に移していくことで、オーナーの持ち分を整理しながら評価額を下げられます。会社への帰属意識向上という経営効果も同時に得られる、一石二鳥の手法です。

「相続が起きてから動く」では取り返しがつかない

ここで最も伝えたいのが、タイミングの問題です。

これらの手法はすべて、相続が発生するに設計しておくことが大前提です。相続が起きてしまった瞬間、その時点の評価額が基準になります。「もっと早く動いておけば」と後悔しても、後の祭りです。

特に持株会社の設立や従業員持株会の設計は、税務上の効果が安定するまで数年かかることもあります。評価10億円の株式が、適切な対策で5億円以下に下がれば、相続税の差額は軽く3億円を超えます。この3億円の差を生み出すのは、「今すぐ動くかどうか」という判断だけです。

業績が好調で純資産が膨らみ続けている会社は、毎期この爆弾が大きくなっていると思ってください。放置しているだけで、将来の相続税は自動的に増え続けます。

まず「今の評価額」を把握することから

「うちの会社、ここ数年で純資産がだいぶ増えたな」と感じているなら、今すぐ顧問税理士に自社株の現状評価額を試算してもらうことをおすすめします。

評価額が思ったより高かったとき、そこから対策を講じるだけの時間があるかどうか——それが、後継者の人生を大きく左右します。事業承継は「いつか考えること」ではなく、「今期中に設計を始めること」です。決算の打ち合わせのついでに、一度腰を据えて話し合ってみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。