先日、資産家の社長からこんな相談を受けました。
「自分が持っている賃貸ビル、そのまま子どもに残したら相続税がどれくらいかかるんだろう。もう少し何とかならないのかな」
不動産をお持ちの経営者の方なら、一度は頭をよぎったことがあるはずです。そして「不動産は相続税対策になる」と聞いたことがある方も多いでしょう。確かにそうです。でも、実はその「対策の深さ」には、個人名義のままか、法人スキームを使うかで、大きな差が出るんです。
個人名義の不動産、実は「まだ損している」かもしれない
個人で不動産を保有している場合、相続税の評価額は一般的に時価の70〜80%程度まで下がります。路線価や固定資産税評価額を使って計算するため、市場で売れる価格よりも低く評価される、という仕組みですね。
これだけでも一定の節税効果はあります。ただ、「法人スキームを活用すればさらにそこから大幅に圧縮できる」という事実を知っている社長は、まだそれほど多くありません。
SPCに移すと、評価額が「時価の3〜4割」になることも
ここで登場するのが、SPC(特別目的会社)を使ったスキームです。
仕組みをざっくり説明すると、まず不動産をSPCという法人に移します。そのうえで、その法人の株式を同族間で保有する形に組み替えます。すると、相続税の評価対象は「不動産そのもの」ではなく「非上場株式」になるため、評価方法がガラッと変わります。
結果として、評価額が時価の30〜40%程度まで下がるケースがあります。個人名義の70〜80%と比べても、さらに半分近くになる計算です。
10億円の物件で考えてみましょう。個人名義のままなら評価額は7〜8億円程度。でもSPCスキームをうまく設計できれば、3〜4億円まで下がる可能性があります。その差は最大6億円以上。税率が50%の課税段階であれば、それだけで3億円近い相続税の差になりうるわけです。これは決して小さな話ではありません。
さらに「財産を増やさない」設計も組み合わせられる
SPCスキームのもう一つの魅力は、賃料収入を法人内に留保できることです。
個人で不動産を持っていると、毎月の賃料はそのまま個人の財産として積み上がっていきます。相続発生時には、その預貯金も含めて課税対象になってしまいます。
一方、法人内に収益を留保すれば、個人の相続財産そのものを増やさずに済みます。法人の株式評価に影響は出ますが、適切に設計すれば相続税の総額を抑える効果が期待できます。
「不動産を持っているだけで相続財産が膨らんでいく」という悩みに対して、構造ごと変えるアプローチ、というイメージです。
ただし、スキームの組み方には細心の注意が必要
ここまで読んで「すぐやろう」と思った方、少し待ってください。このスキームは設計を誤ると、税務リスクが一気に跳ね上がります。
特に注意が必要なのは次の点です。
- 不動産の法人への移転価格が時価と乖離していると、贈与税や法人税の問題が発生する
- 同族会社の株式評価は、純資産価額方式や類似業種比準方式など複数の方法があり、どれが適用されるかで評価額が大きく変わる
- 税務当局に「租税回避」と認定されないよう、事業実態の確保が求められる
SPCはあくまで「節税の道具」ではなく、きちんと事業目的を持って設計される必要があります。形だけ整えても、実態が伴わなければ否認リスクがあるということは、頭に入れておいてください。
相続対策は「建てる前」「移す前」に設計するのが鉄則
不動産の相続対策でよく聞く失敗は、「すでに個人名義で持ってしまってから、後になって動こうとする」パターンです。不動産を取得する段階、あるいは事業承継を本格的に考え始めた段階で、法人スキームの設計を織り込んでおくのが理想です。
法人への移転には不動産取得税や登録免許税もかかりますし、タイミングによっては費用対効果が合わないこともあります。だからこそ、早めに全体像を試算して、動くかどうかを判断することが大切です。
資産規模が大きくなればなるほど、このスキームの恩恵は大きくなります。賃貸物件を複数お持ちの社長や、自社ビルを法人に持たせることを検討している方は、まず現状の評価額と法人化した場合の試算を並べて確認することから始めてみてください。
相続税は「気づいたときには手遅れ」になりやすい税金です。今動けるうちに、専門家と一緒に設計図を描いておくことを強くおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。