先日、年商12億円の建設会社を経営するA社長からこんな相談を受けました。「毎年ちゃんと利益が出てるのに、手元に残るお金が全然増えない。税金だけがどんどん増えていく気がして…」と。
話を聞いてみると、グループで3つの事業を実質的に動かしているにもかかわらず、すべての利益を1社に集めて申告していました。これ、実は税負担が最も重くなるパターンのひとつなんです。
1社に利益を集めると、なぜ損なのか
法人税は利益が大きくなるほど実効税率が上がる仕組みになっています。中小企業の軽減税率(年800万円以下の所得に対して15%)は、1社あたりの所得が基準になります。
つまり、年間1億円の利益が1社に集中すると、大部分が通常税率(約23.2%)で課税されます。ところが、同じ1億円を3社に分散できれば、それぞれが軽減税率の恩恵を受けやすくなり、グループ全体の税負担を大きく減らせる可能性があるんです。
理論上の試算では、この構造の違いだけで年間2,000〜3,000万円の税負担差が生まれるケースもあります。毎年のことですから、10年積み上げると2〜3億円の差になる計算です。
持株会社(ホールディングス)を頂点に置く理由
そこで注目したいのが「持株会社化」という手法です。持株会社(ホールディングス)を新たに設立し、その傘下に事業会社を複数ぶら下げる構造を作ります。
この仕組みの最大のポイントは「グループ通算制度」の活用です。グループ通算制度とは、グループ内の黒字会社と赤字会社の損益を合算して法人税を計算できる制度のこと。たとえばA社が5,000万円の黒字、B社が2,000万円の赤字であれば、グループ全体の課税所得を3,000万円として申告できます。
新しい事業を立ち上げた初年度は赤字になりやすいですが、この制度があれば既存事業の黒字と相殺できるわけです。「新事業への投資が節税にもなる」という構造を作れるのは、グループ経営ならではのメリットだと言えます。
役員報酬と配当を組み合わせると、さらに手元が増える
持株会社の活用は、法人税だけの話にとどまりません。役員報酬の設計と配当の組み合わせによって、個人の手取りも最適化できます。
持株会社から受け取る配当には「受取配当等の益金不算入制度」が適用されるため、子会社から持株会社へ利益を配当で上げる際に二重課税を避けられます。さらに、持株会社から個人オーナーへの報酬・配当の比率を調整することで、社会保険料の負担も含めた手取り最大化の設計が可能です。
「法人税を減らしたら、今度は個人の所得税が増えてしまった」という本末転倒を防ぐためにも、法人と個人を一体で設計することが重要です。
M&Aや事業承継にも先手を打てる
もうひとつ、見逃せない効果があります。持株会社化しておくと、M&Aや事業承継の場面で圧倒的に有利になるという点です。
事業を売却する場合、持株会社の株式を譲渡する形にすることで、譲渡益に対する税率を法人税ではなく株式譲渡の分離課税(約20%)に抑えられるケースがあります。また、自社株の評価額を下げやすい構造を事前に作っておくことで、相続・贈与時の税負担も軽減できます。
「売りたいと思ったとき」「承継したいと思ったとき」に慌てて動いても、構造を変えるには時間がかかります。有利な条件で動ける選択肢を持つためにも、早い段階で持株会社化しておくことに意味があるんです。
「利益が出てから考える」では手遅れになる
持株会社の設立やグループ再編には、登記費用・税務手続き・各種契約の見直しなど、相応の準備が必要です。また、グループ通算制度の適用を受けるには事前の届出も必要で、思い立ってすぐに今期の税金に反映できるわけではありません。
さらに注意したいのは、「形だけ会社を分けて実態がない」と判断された場合、税務調査で否認されるリスクがある点です。各社に実態のある事業・人員・取引が必要で、単なる「節税目的の分社化」は否認されやすいです。設計段階から専門家を交えて進めることが不可欠です。
年商が5億を超え、毎年安定して利益が出るようになってきたタイミングが、持株会社化を検討する目安のひとつです。今の決算が終わる前に、一度自社のグループ構造を税理士やM&Aアドバイザーと一緒に見直してみることをおすすめします。構造を先に作った経営者だけが、次のステージへ進む選択肢を持てるからです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。