先日、年商10億円の製造業を営む社長から、こんな相談を受けました。

「顧問税理士に相続のシミュレーションをお願いしたら、自社株だけで評価額が8億円を超えると言われて……。息子に会社を継がせたいのに、相続税だけで3億円以上かかると聞いて、頭が真っ白になってしまいました」

この社長、決して経営が傾いているわけではありません。むしろ20年以上かけてコツコツと利益を積み上げてきた、地域でも信頼の厚い優良企業です。でも、それゆえに自社株の評価額が膨らみ、相続のときに巨額の税金として跳ね返ってくる。これが中小企業の事業承継問題の本質です。

頑張った結果が「税の重荷」になる理由

非上場の中小企業の株式は、「純資産価額方式」や「類似業種比準方式」で評価されます。

特に純資産価額方式では、会社の資産から負債を差し引いた純資産をそのまま株価とみなします。長年、内部留保を積み上げてきた会社ほど純資産が大きくなり、株式評価額が高くなる仕組みです。

つまり、「経営を頑張ってきた証拠」が、そのまま相続税の課税対象として重くのしかかってくる。これは構造的な問題で、知らないまま放置すれば後継者が「税金のために会社を手放す」という最悪のシナリオに陥ることもあります。

持株会社を使うと評価額が圧縮できる理由

こうした問題への有効な対処法のひとつが、「持株会社スキーム」です。

仕組み自体はシンプルです。社長が直接保有していた事業会社の株式を、新たに設立した持株会社(ホールディングス)に移す。そして社長は持株会社の株を持つ、という二重構造にします。

このとき重要なのが、持株会社に借入を入れるという設計です。たとえば持株会社が金融機関から5億円を借り入れ、その資金で事業会社株を取得すれば、持株会社の貸借対照表には5億円の負債が計上されます。これにより持株会社の純資産が圧縮され、持株会社株の評価額が下がるというロジックです。

さらに、複数の事業を持株会社の傘下に分散させることで、各事業会社の純資産をさらに圧縮する効果も期待できます。設計次第では、評価額を当初の半分近くまで下げることも不可能ではありません。

事業承継税制との組み合わせで「9割減」も現実に

評価額を圧縮した上で、さらに強力な武器があります。それが「事業承継税制の特例措置」との組み合わせです。

この特例では、一定の要件を満たした中小企業が後継者に株式を引き継ぐ際、贈与税・相続税の全額(100%)の納税猶予が受けられます。要件を満たした状態が続けば、最終的に税金が免除になる可能性もある制度です。

持株会社スキームで評価額を圧縮した上にこの特例を適用すれば——相続税の負担が9割近く削減できたケースが報告されているのは、こうした組み合わせ効果によるものです。

ただし、大事な期限があります。この特例の適用を受けるには、2027年12月末までに「特例承継計画」を都道府県知事に提出しなければなりません。残り1年半。「そのうち準備しよう」では間に合わない可能性が高まっています。

「株式保有特定会社」という落とし穴

ここまで聞くと、すぐに持株会社を作りたくなるかもしれません。しかし、設計を誤ると逆効果になるリスクがあるので注意が必要です。

それが「株式保有特定会社」への該当です。

持株会社が保有する資産のうち、株式等が総資産の50%以上を占める場合、税務上この判定を受けます。そうなると、評価が下がりやすい「類似業種比準方式」が使えなくなり、純資産価額方式が強制適用されます。結果として、持株会社を作ったにもかかわらず、かえって評価額が高くなってしまうケースも実際に起きています。

この罠を避けるには、持株会社に株式以外の資産(不動産や事業性資産など)を持たせる、複数事業を分散させるなどの追加設計が必要になります。スキームの構築は、事業承継を専門とする税理士への相談が前提条件です。

今動き出せるかどうかが、数億円の差になる

持株会社の設立から株式移転、金融機関との交渉、税務申告の整理まで——すべてが完了するまでには、最低でも1年、余裕を見れば2年かかることも珍しくありません。

2027年12月末の特例期限から逆算すると、今から動き出すのが現実的なラストチャンスに近いと言えます。

まずは事業承継専門の税理士に現状の自社株評価額を試算してもらい、「いま相続が発生したらいくらの税金がかかるか」を数字で把握することから始めてください。数字を見れば、動くべき理由は自然と明確になるはずです。億単位の自社株を持つ社長にとって、この一歩を踏み出すかどうかが、文字通り数億円の差を生みます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。