先日、製造業を経営する60代の社長から電話がかかってきました。
「先生、うちの特例、もう間に合わないって本当ですか」
息子さんへの承継を数年前から検討していて、自社株の評価額は5億円超。普通に贈与や相続で渡せば、数億円規模の税負担が発生します。でも事業承継税制の特例を使えば、その税額が全額猶予されるはずだった。「はずだった」という過去形が、今となっては重くのしかかります。
特例承継計画の提出期限が、2026年3月31日で終わっていた
事業承継税制の特例措置とは、後継者に自社株を渡す際にかかる贈与税・相続税を、一定の要件を満たすことで全額猶予する制度です。
普通の事業承継税制(一般措置)と比べると、特例措置は猶予される株式数の上限がなく、複数の後継者にも対応できます。株価5億円規模の会社であれば、数億円規模の税が猶予対象になります。その効果の大きさは、他の節税手段と比べても飛び抜けています。
ところがこの特例を使うには、「特例承継計画」という書類を認定経営革新等支援機関(認定支援機関)と連名で作成し、都道府県に提出しておく必要がありました。その提出期限が、2026年3月31日。
もし提出を先送りにしていたなら、残念ながらこの特例を受ける道は閉じています。
なぜ先送りされてしまうのか
事業承継の話は、どうしても「まだ早い」と感じやすいものです。先代社長が現役で元気なら、なおさらです。
「息子がもう少し経験を積んでから」「業績が安定してから」「健康が心配になってから考えよう」——こういった理由で計画書の提出を後回しにしてきたケースは、決して少なくありません。
実際によく聞くのが「申請期限があるとは知らなかった」という声です。特例が使えること自体は知っていても、「計画書の提出」という前段階に期限があることまで把握していなかった。知らないまま期限が過ぎた社長にとっては、非常に厳しい現実です。
提出済みの方も、気を抜いてはいけない
特例承継計画をすでに提出している方には、まだ間に合うという朗報があります。計画書の提出はあくまで「特例を使う権利を持つ」ための準備。実際に贈与や相続に適用できる期限は、2027年12月31日まであります。
つまり今から動けば、まだ数億円単位の猶予を受けられる可能性がある。ここは焦らず、ただし確実に準備を進めてほしいところです。
ただし油断は禁物です。提出済みだからといって、何もしなければ使えるわけではありません。後継者の要件、会社の要件、雇用維持の条件など細かな規定があり、途中で要件を外れると猶予されていた税額が一気に確定する「打ち切り課税」のリスクもあります。認定支援機関や税理士と連携しながら、具体的な承継の手続きを進めていく必要があります。
提出が間に合わなかった場合の選択肢
特例を使えないとなると、選択肢は限られますが、ゼロではありません。
一般措置(通常の事業承継税制)は引き続き使えます。猶予される株式数には上限があり(議決権の3分の2まで)、特例と比べると効果は限定的ですが、それでも活用価値は十分あります。また、計画的な株価引き下げ対策や生前贈与の活用、持株会社スキームを組み合わせることで、負担を抑えながら承継を進める方法もあります。
どの手段も「早く動けば動くほど選択肢が広がる」という点では共通しています。
今すぐやること
特例承継計画を提出済みの社長は、今すぐ税理士か認定支援機関に連絡を取って、現在の状況を整理してください。2027年12月まで時間があると思っているうちに、あっという間に過ぎます。
提出が間に合わなかった方は、落ち込む前に一般措置と株価対策の組み合わせをシミュレーションすることをおすすめします。「3月に終わった話」ではなく、「今から動く話」として捉え直してください。
事業承継は、税金の問題であると同時に、会社の未来と家族の関係に関わる問題です。まだ専門家との相談の場を設けていない社長は、今期中に一度でも動いておくことを強くすすめます。何もしないことが、最もリスクの高い選択になりかねません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。